SSやオフ再録
日常:紡ぐ時 前編(紡がれし百年の時)
百年目の怪物、テラスファルマの衰退時期が徐々に過去に遡っている可能性がある、と判明した。
遺跡に残っていた資料によると、聖皇歴250年前後から減少し始め、298年時点においてもなお少数が残ってはいたとされていたのだが、過去が改変され170年にはほぼ絶滅していた事になっている。そして衰退時期はさらに遡りつつある、と。
だがその減少したテラスファルマを補うべく、遺跡にて増殖させ、個体を外部に放っていたらしい。
・・・それも100年前だけでなく、200年前にも。
そうしてまで結界を守りたいとは・・・?
そしてなぜ衰退していったか、という疑問に、資料は時代樹の多用を理由にあげていた。時代樹を多用した事により、真の時代樹が活性化した為だ、と。
集まった皆は“真の時代樹?”と首を傾げる。
その真の時代樹についての説明を、ゼフォンが行った。
その話のあまりの果てしない大きさに皆が絶句する。
そして、集まった仲間達に、100年前などの過去にトルワド達が戦ってきたテラスファルマが結局本当に外部のモノであったのか、森羅宮が放ったものなのか、との疑問が湧く。だが確かめる術もない、などと言っていた時にザヴィドが“確かめる方法はある、と口を開いた。
「そこの白い小僧をしばらく貸してくれ。俺が確かめてきてやる。」
「白い小僧って・・・ボク?」
普段から団長絡みで何かと合わないはずの2人。また何か?と周りは思っていると、ゼフォンはニッコリと笑って言った。
「うん、いいよ。行ってあげる。」
これにはデューカスもミュラも素で驚いていた。
えええ、と叫ぶ2人に、ゼフォンは“キミ達はボクの事をなんだと思ってる訳?”と苦笑しつつ、“ボクも気になるからだよ”、と言っていた。
そしてこの2人が行ってしまうと、ミュラが言った。
「トルワドにも一応知らせた方がいいかもね。」
「あ、じゃあ僕が行ってくるよ!」
「・・・え。」
「何、ミュラ。そのなんとも言えない表情は?何か問題でもあるの?」
「あ、ああ・・・いや・・・。じゃあ、あたしも一緒に行こうか?」
「いいよ、報告に行くだけだしね。何も危険なんてないし。」
団長はニッコリと笑ってそのまま100年前に行ってしまった。
後に残ったミュラ達は、“むしろ団長が危険なんだが・・・”と心の中で思っていたのだが。
そして100年前にやってきた団長。
「ああ、連中、来たぞ。」
団長が来たのにすかさず気付いたトルワドが駆け付けるように傍にやってきて言った。
「えっ!?」
「アイオニア軍だよ。言いがかりにもならない理由をつけて攻めて来たんだ。」
ロルフも近づいてきて言った。
「そ、それで!?」
「小競り合いにはなったが、すぐ追い返した。被害はなかったと言っていい。」
トルワドが答えると、団長はあの人を引き付ける笑顔で“そうですか!”とニッコリした。
トルワドもその笑顔を見て微笑み、団長の頭を撫でた。
「正直、半信半疑だったんだが・・・助かった。ありがとう。」
「いえ、自分の為でもあったんです。もしトルワドさんが死んじゃったら僕は生れて来ないことになりますから。」
「まあ、それはそうだが・・・ていうか俺はむしろ君と子作・・・」
「トルワド?」
何か言いかけたトルワドに、ロルフがニッコリとしつつ遮る。
「ああ、ロルフ、分かってる。ええと、ていうかまだ俺に対して敬語でさん付けなのか?」
「え?」
「ああ、いや。それにしても、どうした?また何かあったのか?」
「はい・・・。」
トルワドの様子に少し首をかしげつつ、団長はテラスファルマの事を説明した。
「テラスファルマはこの時代よりも前にいなくなったことになってて・・・でも森羅宮は結界を解きたくないから過去に戻ってテラスファルマを補充してる・・・?」
ロルフが唖然として繰り返した。トルワドがハッとして言う。
「そうだとすると・・・俺達が戦ったのも本物のテラスファルマではなかったことにすり替わってしまった・・・という訳か!?」
「もう大抵の事には驚かないつもりだったけどこれはまた・・・強烈だね。」
「信じられないのは分かります。僕たちの方もまだ証拠をつかんでないから仲間が確かめに行ってるところです。ただ・・・多分ヨフールさんは地蟲が結界の外にテラスファルマを放すところを見ています。」
「そう・・・なのか・・・。」
トルワドが呟いたあと、団長がキッと表情を強めて言う。
「とにかく、さっきも言ったように今の森羅宮は何をするか分かりません。これからも気をつけて下さい。」
「ああ・・・まだ混乱しているが油断だけはしないようにする。」
そう言いながらトルワドは団長の肩を両手で持ち、じっと目を見つめた。
もうキッとした表情の団長が可愛くて仕方がないらしい。そしてそのままよく分かっていない団長を引き寄せようとした所でロルフがまたニッコリと、そしてさりげに2人の間に入ってきて言った。
「すっかり頼もしくなったね。」
「え?」
やはり分かっていなかった団長はロルフの言った事にコテン、と首をかしげる。
トルワドは軽く舌打ちしながらも頷いた。
「そうだな。最初は俺達が後輩を導いているつもりだったのにいつの間にかこっちが教えられ、助けられている。」
「そんな・・・トルワドさん達にはどれだけお世話になったか・・・。」
「お世話ならそれはもう、色々としてや・・・」
「いやいや、ほんとこっちが助かってるよ!ありがとうね。」
またトルワドが何かを言いかけたのを笑顔で遮ってロルフが団長に礼を言った。
その後宿星について話をした後で、団長がニコニコと手を振りながら100年後に戻って行った。
そしてトルワドが時代樹を見ながら口を開く。
「ロルフ・・・なんか俺に恨みでもあるのか?」
するとロルフも時代樹を見ながら笑顔で答える。
「バカな事を。先ほども分かっている、とは言ってはいたけど、どうにもやっぱりそのどうしようもない脳に浸透してないようだね?あの子は君の子孫だからね!?ところどころでとんでもない事を考えているのが手に取るように分かるけど、大事な事だからもう一度言っておくよ。あの子は君の子孫!」
「・・・ち・・・。・・・・・・分かってるよ。それにあの子が今もなお存在してるって事は、ちゃんと俺は女性と結婚する訳だろ。」
「トルワド。頼むからあの子に似た女性とか探すのだけはやめてくれよ?結果的にはお前にも似る可能性が高いんだからね。俺はそんな気持ちの悪い状態な親友夫婦は持ちたくない。」
「・・・・・・・・・。」
「その沈黙が怖いよ。」