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SSやオフ再録

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日常:欲しい物(幻水4 テド4)



「なあ。あんたってラズロの昔からの知り合いなんだろ?」

ケネスが甲板で警備していると不意に声をかけられた。
この声は・・・と振り返るとやはり、普段大抵の者がほぼ喋った事がないが、実はツンデレなんじゃないかと一部で有名な弓使いだった。

「え?ああ、まあ、な。えーと、テッド、なんでだ?」
「いや、その・・・なら分かるか?アイツが何もらうと喜ぶ、とか。・・・」
「「まんじゅうだろ。」まんじゅう以外で。」

少し被った。

「えっと・・・なぜそんな事を俺に聞くんだ?ラズロに直接聞けばいいじゃないか。」
「う・・・。」
「おいおいケネス、分かってやれよー。微妙な男心なんだよ、な!?」

そこにハーヴェイがにやにやとしながら入ってきた。その横でシグルドが呆れたようにハーヴェイを見ている。

「え?」
「ち、違っ。俺はただっ・・・その・・・バレンタインのお返しに、だな!」
「ああ、なるほど。」

バレンタインの時にはラズロは小さな可愛らしいチョコを皆に配っていた。
ただ、甘いものに興味を示さず、見た目は少年のようなのになかなか酒豪なテッドにだけは特別にどこかで見つけてきたチョコレートスタウトという黒ビールをプレゼントしていたのを乗組員全員が知っていた。
そんな事を思い出しつつ、ケネスは素で答えた。
そして、むしろハーヴェイのようにからかい半分で言ってくれたほうがマシだった、とテッドは思った。なんだか妙に居た堪れない。

「変な事聞いて悪かった。じゃあ・・・」
「て、何を聞いてたんだい?テッド。」

逃げるようにその場を去ろうとしたテッドの前にこの船のリーダー、ラズロが立ちはだかった。

「ギャア!」
「っうわ!え、何?そんなに驚かれるような事!?」

思わず飛び退るテッドにびっくりしつつラズロは小首をかしげて聞いた。

「あーいや、その、なんだ・・・どうやらテッドが・・・」
「ああ、たいした事じゃないんですよ、ラズロ様。お気になさらず。それよりも何かご用があったのでは?」

普段はしっかりしている割にこういった事に疎いケネスが言いかけたのを、シグルドが笑顔で遮った。

「え?あ、ああ、うん。そろそろ船の備品の在庫が少なくなってきてるらしいから、ちょっと久しぶりに近くの島に降りようと思って。それに僕も買い物したいしね。で、テッドを誘いに来たんだけど。」
「また俺に頼るのか?」
「うん。」

誘われたとたん、本当は嬉しいくせにいつもの突き放すような言い方をテッドが言ったにも関わらず、ラズロは笑顔で答える。

「あ、皆も一緒に行かない?」

そしてケネス達をも誘ってきた。

「お、まじでか、行・・・」
「いえ、私たちは少し用事を済ませてから参りますので、先にラズロ様はテッドと一緒に行ってきて下さい。」

今度はハーヴェイを遮り、シグルドがまたもやニッコリと言った。

「そう?分かった。じゃあ行こうよ、テッド。」
「あ?ああ、分かった。」

そうして2人が去ってからハーヴェイが口を開く。

「なんだよ、俺だってたまにはリーダーと一緒に行きたいんだからな!」
「それは俺だってそうだ。だがラズロ様がテッドを好いておられるのは皆承知の事だろう、仕方ない。後はテッドがもう少し、なぁ。」

シグルドがため息をつきつつ言った。するとケネスが驚いたようにシグルドを見た。

「て、あいつ、ラズロの事好きなのか?いつもそっけないからてっきりラズロの事もその他大勢と同じように避けてるのかと。・・・やっぱりツンデレという噂は本当だったんだな。」


一方船が岸に着く前に、先にビッキーに送ってもらっていたラズロとテッドだが。
買い物をしたいと言っていたラズロ。
テッドはこれでラズロの欲しいものや好きそうなものが分かるのでは、と淡い期待をしていたのだが、結局ラズロが見て回ったり買ったりするのは戦いの装備品や必要道具ばかり。

「くそ。結局何も分からないままかよ・・・。」
「ん?何か言った?テッド。」

必要なものを買い、ついで、とその辺の店で買ったまんじゅうを、ちょっとした丘の木陰で休憩がてら嬉しそうに食べていたラズロが、自分の左側で同じように座っていたテッドに聞いた。

「いや・・・。」
「そう?あ、テッドもいる?けっこう美味しいよ、このまんじゅう。」
「いらん。お前はまんじゅうならどれも旨いんだろうが。」
「うん。」

ニッコリと笑ってきたラズロをちらりと横目で見て少し赤くなってから、テッドは思いきって聞くことにした。

「なあ・・・その・・・。」
「ん?」
「えっと、このあいだくれた・・・バレンタイのお礼・・・えっと、もうすぐ、だろ?ホワイトデー。俺・・・お前が欲しいもの、まんじゅう以外に思い付かなくって、さ・・・。その・・・何か・・・欲しいものって、ないのか?」
「え・・・」

きっとまんじゅうは色んなヤツがラズロにプレゼントしそうだとテッドは考えていた。だから・・・何か他にラズロが欲しい物を知りたかった。
ボソボソと俯き加減で言ったテッドを、ラズロはキョトン、と見る。そして破顔した。

「テッド!ありがとう!嬉しい。」
「え、いや、俺まだ何も・・・」
「その気持ちだけで十分嬉しいよ。」
「え、何かないのかよ。」
「えー。」
「えー、じゃ、ねえ。・・・何かあげて・・・その、喜んで欲しいんだよ・・・。」

テッドはあらぬ方を見ながら言った。もう、俺、限界。これ以上はもう言えねえ、そう思っていると、ラズロがニッコリとして言った。

「おまんじゅうも十分嬉しいんだけど。そうだね・・・じゃあね、今、お願いしていい?」
「あ?ああ、いいぞ。」
「・・・手。」
「は?」
「手、つなぎたい。・・・だめ?」

そう言ってラズロはニッコリしながら左手をテッドに差し出した。
作品名:SSやオフ再録 作家名:かなみ