SSやオフ再録
日常:テ坊(無題)(テッドと坊っちゃん)
以前プチ幻水オフ会の際に用意したプチコピー本もどき
坊=リブロ
「ねえ、テッドってさ、たまぁにおじいちゃんみたいなとこ、あるよね?」
リブロがニッコリ笑っていってきた。テッドはジロリとそんな事を無邪気に言ってきた親友を見る。この少年は、今現在テッドが世話になっているテオ・マクドールの嫡男であった。
初めて出会った時の事は今でもよく覚えている。
テオが「息子を紹介しよう」と言われた時は少々メンドクサイと思ったものだ。子供の相手は疲れる。だがとりあえずテオには感謝していたテッドは、連れて来られた少年に「初めまして、テッドです、よろしく」と言いながら口角を上げた。
とりあえず口角を上げていればにこやかに笑っているように見える。
それを見た少年は一瞬だけジッとテッドを見てきた後で、ニッコリと笑いかけてきた。
「リブロです、はじめまして、テッドさん。こちらこそよろしくお願いします」
少年は丁寧でしっかりとした挨拶を返してきた。さすが貴族の息子だなとテッドは思ったものだ。
だがしばらく接してみて気付いた。
「……お前ってさ、もしかして、結構性格、悪い?俺をお愛想で誤魔化そうったって300年早いぞ」
どうにも嘘くさい笑みとあからさまな態度にしか見えなくなってイライラしてきたテッドは、ある日相変わらず丁寧に接してくるリブロに言ってみた。
するとポカンとした後で、リブロはむしろ愛らしいと言ってもいいほどの笑みを浮かべてきた。
「あは。やだなあテッドさんったら。何を言っておられるのかな」
「……お前……」
「……ふふ。とがめられるのは僕だけ?」
「は?」
「テッドさんだって僕の事適当にあしらおうと思っているでしょう?」
怪訝な表情をしたテッドに、リブロがニコニコとしたまま聞いてきた。
「なにを……」
「……父さんが気に入っておられる人のようだから僕も仲良くしたいなあとは思っていたんですよ?でも」
そう言いかけ、リブロはふと真顔になった。
「……愛想笑いは見慣れすぎるほど見慣れてるんだよね」
そしてボソリとそんな事を言ってきた。
「お前……」
「ねえテッドさん。別に良いんですよ、無理やり僕と仲良くしようとしなくても。別に僕は父さんにあらぬ事など言いません」
テッドがジッとリブロを見ていると、リブロはまたニッコリと笑ってきた。テッドはしばらく黙った後、いきなりリブロの頭をはたいた。
「った!何す……」
「俺はさー、別にお前がどうこうだからってのはないぞ?ただ単に子供が苦手なだけだからな」
「自分だって子供じゃない」
「俺はこれでも……って、いや、なんでもない。とりあえずあれだ、子供は子供らしくしてたらいーんだよ!」
「でも君は子供が苦手って言ったじゃないか!」
「いちいちうるさいな!これだから子供は苦手なんだよ!」
「なんだよ!それとこれとは関係ないじゃない!」
「関係なくねぇ!だいたいお貴族様だから今までおべっか使うヤツにしか会った事ないから、とか貴族の中では自分には母親がいないせいで影口言われてた、とか、な。そういうよくあるパターンで拗ねてんだとしたらお前マジガキなんだからな!」
「なっ、なんだよ!知ったような口きくな!」
「ああ知らないね!お前が何も言わないんじゃ俺が知りようないだろ!」
「何で僕がお前にそんな事言わなきゃいけないんだよ!お前こそ僕とそれほど変わらない歳だろうに、何でも知った風な顔して偉そうなこと言うな!」
「んだとっ?こう見えて俺は3……」
テッドが言いかけた時にいきなりドアがバタンと音を立てて開き、グレミオとクレオが「坊っちゃん!?」などと叫びながら入ってきた。
「どうされたんです!?」
2人が来た事で我に返ったリブロが戸惑ったような表情を浮かべつつ首を振った。
「あ……。その、いや、なんでもない、なんでもないんだ。ごめんなさい」
「でも……!」
グレミオが心配気に更に何か言おうとすると、何やら少し考えている様子のクレオが遮った。
「坊っちゃんが何もないと言っているんだ、行こうグレミオ。坊っちゃん、いきなり飛びこんできてすいません。……テッドくんも」
「え、え?ぼ、坊っちゃん、ほんとに何でもないんですね?何かあるなら、このグレミオがいつで……グェ」
まだリブロに言いかけるグレミオの首根っこをつかみ、クレオは構わず「失礼しました」と再度言ってから出て行った。
2人はそんな彼らを唖然と見た後で目を合わせた。
「「……ぷ」」
そして吹き出す。
「あーなんだっけ。もー馬鹿らしくなってきたわ」
「僕も」
リブロが照れたように笑って言うと、テッドが左手を差し出してきた。
「なぁに?」
「握手。あらためて、俺、テッド。仲良くしてくれな!」
「……うん!僕はリブロ。ありがとう、テッド!」
リブロはテッドが思わず見惚れるほど眩い笑みを浮かべて、差し出してきた手を握ってきた。
「……最初は可愛かったよなー、て言おうと思ったけど、やっぱ最初っから可愛くなかったわ、リブロ」
テッドがボソリと呟く。……あの笑顔は可愛かったけれども。
草原で、はしゃいで走り倒した後でヘタレたテッドの背中にもたれていたリブロは「なんだよー」と向き直り、テッドの背後から抱きついてきた。
「思った事を言っただけじゃない」
「俺がじいさんだ、って?」
「ふふ」
リブロが幸せそうに微笑んだ。前を向いてたテッドは少し頬を赤らめた後でそっと振り向き、リブロに顔を近づける。
いつからだろうか、こうした関係になったのは。
テッドは柔らかい唇の感触を味わいながら思った。
友達になれて、それがいつの間にかかけがえのない親友になっていて。そして……。
リブロは仲良くなって以来、なんでもテッドに話してくれる。楽しかった事、悔しかった事悲しかった事。そしてテッドが大好きだ、と。
テッドはふ、と顔を綻ばせながら、顔を向けている方の手を地面から離し、リブロの体に回した。
そうしながら考える。
なんでも話してくれるリブロ。だのに俺は……。
テッドは回していない地面についている方の右手をギュっと握った。
……いい加減、話そう。
そう思った時、唇を離したリブロがニッコリしながら言ってきた。
「テッド!明日ね、実は僕、皇帝バルバロッサ様との謁見があるんだよ」
「まじでか!すごいじゃないか!後で皇帝やウィンディ様がどんな人だったか教えてくれな!」
「えー、どうしようかな」
「なんだよいいじゃん!気になんじゃん、一生のお願いだよ」
「テッドまたそれ?テッドには何回一生があるんだよ、どれだけ長い生なの、もー」
……それはそれは長い時間、あるんだよ。長い、ね。
テッドは「それほど毎回必死にお願いしてんの!」と言いながらリブロに向き直って、また引き寄せた。
長い、生。それを言わないとだ、な。でも…………俺の話はまた、今度にするか……。
テッドはその時はそう思っていた。