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みんなで、しあわせ。

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みんなで、しあわせ。
 
 
 帰ってきた赤毛の青年が、かつてアッシュと呼ばれていた人物だとわかったとき、少なくとも他に分かるような動揺を見せなかったのは、旅の仲間のうちではジェイド・カーティスただひとりだった。
「大佐、なんで驚かなかったの?ルークは、アッシュは死んだって言ってたのに……」
 アニスがジェイドの顔をのぞきこむ。
 一同、とりあえず夜の渓谷を抜け、街道まで戻ってきたところだった。少し離れた草地には、懐かしいアルビオールが待っているはずだった。
 妙に居心地の悪そうなアッシュ……いや、ルーク・フォン・ファブレを、ナタリアが質問攻めにしている。その様子をじっと見つめるティアとガイ。
「驚きましたとも」
 ジェイドはのんびりと応える。
「嘘。大佐がそういう言い方するときは、いつも嘘ついてた」
「アニース。いい加減その『大佐』はやめていただけませんか?あなたも謡士に出世したそうじゃありませんか」
「まあまあ、呼びやすいんですもん、大佐のほうが」
「確かに、私も将官の器ではありませんがね」
 世界の混乱を鎮めるため、投獄されていたディストことサフィールまで引きずり出して、今後予想される音素減少やら諸々の課題の解決策を練っているところだ。正直、将軍職など返上して、研究室に籠もっていたいところだったが、彼の主君はそれを許さなかった。いわく、「俺だけ働くなんて不公平だ。お前も働け」
 ……そんなわけでジェイドは多忙だった、そのほうが、いろいろなことを忘れられた。完全同位体のビッグバン現象については、いまのところ、研究者間だけの認知にとどまっていたから、ルークの身におこったことについては、この場ではジェイドだけしか知らない筈だった。
 しかし、それも今日、終わる。
 オリジナルのルークが帰ってきた。彼は、レプリカルークは、オリジナルの中に残る記憶だけしか残すことなく、この世界に溶けてしまったことになる。
「帰ってきたんだ、アッシュが」
 小さな声で、アニスが呟いた。
「どうせなら、玉の輿確率がちょっとでも高い方に帰ってきてもらいたかったんじゃありませんか、アニスは」
「もー。私はもう昔の強欲アニスちゃんじゃありませんよう。そりゃ、お金は大事ですけど……。今はちょっと、それどころじゃない、ってゆーか!」
 かつてのルークと違う意味で、アニスは昔のジェイドに似ていた。状況が彼女をどんどん、素直な子供でいられなくしていることとか、それに応えられるだけの能力があるばかりに、より逃げられない所に追いつめられつつあるところとか。
「……とにかく、元気そうでなによりです」
「そうだね。……そうですよね」
 ジェイドはアニスのことを言ったつもりだった。アニスは、赤毛の青年のまだ遙か向こうを見ていた。
 
 
 
「え?」
 びっくりしたように足をとめたアッシュ、ナタリアも立ちつくしている。
「どうしました?」
「……大佐」
 ティアまでもがそう呼び、そして慌てて「ごめんなさい、ジェイド」と付け加えた。
「いえ。で、どうしたんです?」
「アッシュが……ルークが」
 困惑の抜けない体で、ナタリアが自分の胸元を押える。
「あいつはなぜ、帰ってきてない」
 オリジナルである青年の緑の瞳が、まっすぐジェイドを見た。
「あんたは、何を知ってる?ジェイド・カーティス」
「なにも」
 ずきり、と、ジェイドの心臓が跳ねた。
「あえて、アッシュとお呼びしますが。アッシュ、あなたは、自分が死んだときのことを覚えていますか」
「ああ」
 ガイが、かすかに顔を歪めた。ティアがなにかを思い出そうとする人のように、天を仰ぐ。
「その後のことは」
「レプリカと一緒に、あんたたちがヴァンを倒したのを俺は知ってる」
「その後は」
「あんたたちをエルドラントから出して、俺たちはローレライを解放した」
「そうです。もう、2年前の話です」
「2年!?」
 アッシュは目を細めて、せいぜい数日前のことだと思ってた、と呟いた。
「アッシュ。あなたに、エルドラント以前のレプリカルークの記憶はありますか」
「どういう意味だ?」
 聞き返したのはガイだった。
「完全同位体の間に起こる、レプリカとオリジナルのコンタミネーション現象によるビッグバンとよばれているものです。サフィールやスピノザは、あなたにすでにその前兆がでていると予測していた。あなたは欠損要素をレプリカルークから取り返して復活した。ルークの記憶は貴方が受け継いでいるはずだ、それを、」
「旦那?そりゃいったい……」
 つい詰問口調になるジェイドに、ガイが割り込んだ。
「……悪いが」
 アッシュが俯いた。伸びた前髪が落ちて、額の半ばを隠している。そうしていると、当然だがルークにそっくりだ、そう、ジェイドは思った。
「俺はあいつの方が先に復活しているとばかり思ってた。あいつとはローレライのところでいろんな話をしたが、記憶については知らない。ビッグバン現象って、なんだ」




「ふん。ジェイドが私に意見を求める、ですか」
「貴方がやらかした事だから尋ねているんですよ、サフィール」
「しかし、なんでも私のせいにされちゃ困りますねえ」
 本来ならば永遠に牢につないでおきたいが、そうもいかないトラブルメイカーが、細っこい指を組んで、考え事をするように首を傾げた。
「ビッグバンは逃れられない現象です。死んだと言われていたアッシュが復活した?何よりではないですか。完全同位体のデータは少ない。理論と多少違った解がでたからといって、ビッグバンを否定するのは馬鹿げています」
「現実を見ずに理論を持ち上げるのもどうかと思うぞ」
 またぞろ仕事をさぼっているマルクト皇帝陛下が茶々を入れる。毎度の事ながらお供はブウサギの一個連隊だ。あまり公にだせない議論をするには、ちょうどいいカムフラージュだった。
「つまりあれか、ジェイド。お前らの理論では『ルークとアッシュの記憶を持ったアッシュ』が、戻ってくるはずだったのか?」
「サフィールのいうとおり、データが少なすぎますが、少なくともチーグル族では同じような現象を確認しています。ビッグバンの前兆現象である音素の乖離がアッシュには起こっていたようですから……」
「そうか」
 ピオニーは頷いた。
「で?俺もそんな報告は聞いてなかったわけだが?ジェイド、それにサフィール」
「確立した理論ではないと判断したからです」
「……ジェイドが黙っていろと」
「お前らなぁ」
「それに」
 ジェイドはズレかけた眼鏡を押し上げた。
「貴方は彼のことを気に入っていたでしょう、陛下」
 ピオニーは庶民じみた仕草で肩をすくめた。
「お前らよりは素直でけなげで可愛かったからな、ルークは」
「それはいったいどのルークのことだか」
 彼の名前を(本人には事後承諾で)つけられたブウサギはいつもどおり、仲間から外れて窓辺でうずくまっている。他のブウサギが一斉に部屋を出ていくのは、ちょうど午をつげるラッパが軍営舎のほうで鳴ったからだった。ルークだけが転た寝でもしているのか、その場を動かなかった。
「どっちもだ」
作品名:みんなで、しあわせ。 作家名:梁瀬春樹