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ひとつの願い

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「アキラ、なにやってるの?」
「秘密です」
先程から何やら手元でごそごそとやっているアキラをほたるが不思議そうな顔付きで覗き込む。
「・・・アキラ、楽しそうだよね」
鼻歌でも歌いだしそうな様子のアキラにほたるは置いてきぼりを喰らった捨て犬のようにしょげている。
垂れた耳と尻尾が現実に見えそうな様にアキラは内心(可愛いv)と思いながらも
「そうですか?」
と味も素っ気も無く返す。
「・・・燃やしていい?」
アキラの手で弄ばれる色取り取りの折り紙に決して軽くない嫉妬を覚えたほたるは早速行動に移そうとした。
「ばっ、何てこと言い出すんですか!!そんな事したら怒りますよ」
「アキラに怒られたって平気だもん」

ボッ

ほたるの刀に火が灯る。
「やめなさい!」
アキラは慌ててほたるに飛びつき折り紙に火が燃え移るのを防いだ。
「・・・なんでそんなことやってるの?理由は?」
アキラは渋々といった様子でほたるの疑問に答えてやる事にした。
「千羽鶴を・・・・作ろうとしてたんですよ。ほら」
アキラが出来上がった小さな折鶴を手のひらに梳くってほたるに見せる。
どれも丁寧に折られていてピンと羽を伸ばした整った形の折鶴たち。
紙など燃やしてしまえばあっという間に消え去ってしまうのに・・・。

―それを千個も?

「千羽鶴ってなに?」
「願掛けみたいなものですよ。・・・違う場合もありますが」
「たとえば?」
「ぇっと・・・そうですね。たとえば見舞い品や記念品、特に意味が無くとも作る事もありますし・・・」
やっぱり分からない。
一体何のためにアキラはそんなことをするのだろうか。

・・・・・・自分を放っておいてまで。

「・・・今はそれ何匹いるの?」
ほたるはアキラの膝の上に散らばっている折鶴を指で示して尋ねた。
「何匹って・・・・・鶴は何羽でしょう。まだまだ千には遠いですよ」
アキラはほたるの発言に呆れた。
ほたるは当然面白くない。
千なんて数、一日やそこらで作り上げられる筈が無いのだから。
「っ!?」
ほたるはいきなりアキラに覆い被さったかと思うと、突然の事に訳が分からない様子のアキラの唇を己のソレで塞いだ。
「っは、ほ・・・たる!何する、んですか!!」
性急な口付けにアキラの息は既に絶え絶えとしている。
「なにって何?・・・・分かってるくせに・・・丁度畳の上だし・・・ヤる?」
ほたるの意地悪な発言に、アキラは頬を紅く染めてキッと睨みつけた。
ほたるの巧みな舌使いで息の弾んだアキラは目を潤ませている。
そんなアキラの様子に欲情せずにいられるだろうか。
「無視なんかしてないでしょう。折鶴作りをしてただけです」
いつも以上に駄々っ子な発言ばかりするほたるにさすがにアキラも困り気味だ。
此れは本当の理由を言ってやった方がいいのだろうか・・・。
できれば言わずに済ませたい。
かなり恥ずかしい理由なのだ。
「アキラは、俺と一緒にいて嬉しくないの・・・・・?」
「!そんなことありません。そんなこと無いんです。だから私は・・・・」
言うべきか。言わずにやり過ごすか。アキラは葛藤した。
「だから、何?」
ほたるの視線がその先を言ってほしいと訴える。
「・・・・馬鹿にしませんか?」
顔を伏せて押し黙っていたアキラが押し殺した声で言った。
「聞いてみなきゃ分からない」
こういった場合何も言わずに肯定すればすむのだが、正直者のほたるは思ったことをそのまま口にした。
「それじゃ言いません。どうせ子供っぽいとか言うんでしょう?」
「聞いてもいない事に子供っぽいなんて言えないじゃん。ばか?」
「っ・・・・!ええ、ええ!どうせ私は馬鹿ですよ!もうほたるなんか知りません!!」
アキラはそう怒鳴るとぷいっとそっぽを向いてしまった。
「なに怒ってんの?」
「貴方には関係のない事です!放っておいて下さい」
アキラは完全にへそを曲げてしまったようだ。
「ねぇ、笑わないから言って?」
「今更何を言うんです?散々人を馬鹿にして」
「馬鹿になんかしてないよ。アキラの起こった顔があんまり可愛いからいけないんだよ?つい苛めたくなっちゃう」
此れほどまでの天然なヤツに勝てる人物がいたらお教え頂きたい。
茹でダコかと見紛うほど赤くなったアキラは卒倒寸前だ。
「・・・・分かりました。降参です。理由をお教えしますからしばらくその節操の無い口を閉じていてください」
「節操無いなんて失礼。アキラ以外のヤツ、可愛いなんて思ったこと無いのに」
「だから口を閉じていらっしゃいと言ったばかりでしょう!!」
(あぁもう、どうしてこうなんでしょう・・・・・)
アキラは内心満更でもなく喜んでいる自分を呆れつつひどく天然なほたるをとても愛しく想った。
「それでは言いますよ」
「うん」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

改まって言うとなるとやはり恥ずかしい。
さっきの言い合いのドサクサに紛れて白状してしまっておけば良かったと思っても後の祭り。
ほたるをちらりと見やると何も言わずにアキラの言葉を待ち構えている。
大きく深呼吸をし、アキラは覚悟を決めた。

「最初、願掛けのようなものだと言ったでしょう?」
「ああ、うん。そういえば言った。他にも色々あったけど」
「ええ。私の場合は願掛けですが・・・・・・」
言い澱むアキラにほたるが何を?と促す。
「ほたるとずっと一緒にいられるように、・・・・・・・と」

やっと聞き取れる位小さな声でアキラが答えた。

「え・・・・、」

ほたるは先ほど嫉妬のこもった視線で見つめていた折鶴たちを呆然と見下ろした。
「願掛けって言った?・・・・オレと一緒にいられることが、アキラの願い・・・・?」
アキラは顔を真っ赤にしてこくんと頷く。
「そっか・・・・・・」
現金なもので、さっきまで燃やしてでもアキラの手のひらから取り上げてしまいたかった折鶴たちがアキラの願いの形なのだと思うと嫉妬心が納まっていく。
凄く嬉しい。
アキラもオレと一緒にいたいと思ってくれてるんだ。
「ねぇアキラ。此れってどうやって作るの?教えてくんない?」
「え?えぇ、いいですよ。・・・でもなんで急に」
座り込んで折鶴をジーっと見つめるほたるの一転した行動にアキラは戸惑いつつも了解する。
「一緒に折った方が早く千匹になるでしょ」
相変わらず千羽ではなく千匹と言うほたるに笑いを誘われてアキラは軽く吹きだした。
「そうですね」
アキラはまだ納まらない笑いに声を震わせながら言った。
「其れではまず此方を半分に・・・あぁ、違いますよ。四角ではなく三角に折るんですよ」
「こう?」
「えぇ、そうです。で、さらに半分にして・・・・・」
ほたるは生まれて初めての折鶴作りに悪戦苦闘した。
それでも途中で投げ出さずに頑張って最後まで折鶴作りに励む。
そしてどうにか一羽の鶴が完成した。
ほたるは出来上がった其れを自分の手のひらにちょこんと乗せて物珍しそうな面持ちで眺めた。
「・・・完成したの?」
「其れで完成です。一羽完成させるのにとても時間が掛かってしまいましたね」
所々折り直した後の見られるほたる作の小さな折鶴をアキラはとても愛しそうに見つめた。
作品名:ひとつの願い 作家名:ショウ