涼の風吹く放課後 お試し版
「あ、あの、こんにちは、秋月涼です。」
現れた女の子3人に向かって、ベンチから立ち上がってそんな風に自己紹介をしていた。遠目でも、涼のはにかんだ様子が伺える。
入学から2ヶ月と経たないうちにこうして呼び出されることが両手でにも余るほどの回数もあったが、いつもと違うのは今日は女の子からの呼び出しらしいことだった。
「すごいよ! これまでは男からの呼び出しばかりだったけど、今日は女の子だよ! 今日はきっと一人でも大丈夫だよね!」
呼び出しの手紙を見て、こんな風にはしゃぎ気味だった涼に対し、俺はあまりいい予感はしなかった。これまで涼は、何度も何度も男子学生から呼び出されては、交際を申し込まれてきた。律儀な性格からか呼び出しには応じるけれど、本人に男子と交際するつもりがないので結局断るしかない。それでもしつこく食い下がる相手に対しては、助け船を出したり時には憎まれ役も引き受けたりしてきたのが俺だ。
その俺から見て、女子からの呼び出しとは言っても、楽観できる要素は何もなかった。懸念されるケースの一つは、これまで断られた男子が諦めきれず女子からの呼び出しを装って再度誘いをかけてくるもの。もう一つは…。
そう俺が思い返している間に、呼び出した女子生徒達と話をしている涼の表情から笑みが消え、やがて戸惑いと、そして困惑の色を帯び、そして最後にはオロオロとした表情に変ってきた。俺からすれば二番目に想定していた事態ではあったが、そのことは涼には黙っておいた。
しかし、やがて涙目になり、そしてうつむいてしまった涼を三人がさらに責めたてている様子を見て、自分の想定自体も甘かったと後悔した。なかなかやめる気配がないので、仕方なく、いつものように助け船を出すことにしよう。
「あのー、申し訳ないですが、それくらいにしてあげてくれないかなぁ?」
女子生徒達と涼との間に分け入って、手モミでもするかのような塩梅で、極力にこやかに語りかけてみる。
「ん? 君も一年坊主じゃないの。先輩にご意見ってワケ?」
「あれぇ? こいつ、例のナイト君じゃない?」
両脇にいた女子生徒が俺に毒づく。
「スイマセン、先輩方。何があったかよくわかりませんけど、涼はほんと悪いことなんて出来ない奴なんですよ。悪気はなかったと思うんで、許してやってくれませんか?」
作品名:涼の風吹く放課後 お試し版 作家名:みにもみ。