涼の風吹く放課後 お試し版
クラスの連中にからかわれるのも気にせず、「たまには外で食べようぜ」と涼を誘って、校庭のベンチに連れ出した。二人でそれぞれの弁当をつつきながら、俺は涼に演劇の話を切り出す。
「今度の演劇なんだけど、普通にしてたら涼は何か役をもらっちゃうと思うけど、どうしよう?」
とりあえず、ヒロイン役だとは言わないようにしておいた。
「え? 別に、大丈夫だと思うよ。」
意外にこともなげな返事。拍子抜けしてしまう。
「仕事の方は平気なのか?」
「それがねぇ…。どうもデビューが遅れそうなんだ。」
「何か、問題でもあったのか?」
「いや、そんな悪い話じゃないみたいなんだよ。実は、来年の1月から始まるドラマで、役をもらえることになったんだ。」
「ええ? 凄いじゃないか。」
「メインの役じゃないんだけどね、結構重要な役回りみたいで…。で、そのドラマの放映に合わせてのデビューにしようということになって。3カ月くらい延期になったんだ。だから、今は少し時間の余裕があるんだ。」
「ドラマの撮影はまだなのか?」
「僕の出番は随分後になってからみたいなんだ。とりあえず、来月までは予定が入ってないし。」
「でも、来月は忙しくなりそうだな。」
「そうだね、主役とかは避けた方がいいかもね…。」
うーん、やっぱりまだ自分のことがわかってないみたいだ。ここはやっぱり、はっきりと言ったほうがいいか。
「いや、涼に回ってくるのは、主役というより、メインヒロインじゃないかと思うんだけど。」
「えぇ? 学校でも女役やらされるのぉ?」
やらされずに済むとでも思っていたのか。
「ただの女役ならいいけど、メインヒロインだと、主役と同じくらい大変だからな。練習に相当時間をとられることになると思う。」
「それは避けたいなぁ…。」
「だよな。そこで、俺に一つアイデアがあるんだけど、どう思うかちょっと考えを聞かせてくれ。」
「うん。わかった、聞かせてよ。」
俺は、自分のアイデアを涼に説明した。
「なるほど…。勇がそれでいいなら、甘えてみようかな…。」
涼からしても、そんなに悪くないアイデアと思ってもらえたようだ。
「涼にとっても、楽な話じゃないぞ。」
「僕もこれからドラマに出るわけだし、学校の演劇とはいえ、何かの経験になるかもしれないから。大丈夫だよ。」
作品名:涼の風吹く放課後 お試し版 作家名:みにもみ。