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拍手

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拍手には様々な意味がある。


敬意、驚嘆、賞賛・賛意・歓迎・喚起・感激・感謝 

これまで四代貴族の一、朽木家第二十八代当主として、
ありとあらゆる所であらゆる意味の拍手を惜しみなく受けてきた。

無論、朽木家当主として己を律し、日々研鑽、修練に励んだ故の
結果であり、そのことについて驕ることも、恐縮するほどのことでもないと
考えている。

今では、拍手をする前のタイミング、音、動作、表情等でその拍手がいかなる意味を
持つか瞬時にわかるようになった。


しかし、今、私にはどうしても腑に落ちないものが一つある。


朽木家第二十八代当主この朽木百哉の内なる衝動、森羅万象すべての理を
一つの筆に凝縮させ、ある普遍的なものに例えることでついに、
芸術的完成を向かえることができた渾身の一作、


その名も「わかめ大使」。


四代貴族の一であり尸魂界の秩序と掟を保つのを旨とする「朽木」という名の重み。
私はついに我が朽木家数千年の歴史を凝縮し、尚且つこれからの朽木家の歩むべき道理を、
この「わかめ大使」に見つけることができた。
これも報本反始、父母及び先祖の賜物であったと心から感謝している。

だが、この「わかめ大使」を披露したときの皆の拍手がどうも
今まで私が受けたどの反応とも異なるのである。

ある者(じいや)は、一瞬の間をおき「……さすがでございます」
と目を伏せ何かを消したいかのように、無言。

ある者(阿散井恋次)は、「あぁ(なんか知ってる……)、いいんじゃないっすか?うまいっすよ」
と、 その拍手にどこか投げやりの音が聞こえ、

またある者(浮竹十四郎)は、「おお~さすがルキアの義兄だな~よく描けてるぞ!」
と笑いながらも、その目は遠い空を見ている。

さらにある者(黒崎一護)に至っては、「血は争えねえな」と一言だけ残し静かに去っていった。


初めは、凡夫にはさすがに理解しがたいかと考えたが、そのような驕りは
朽木家当主にあるまじき愚挙。


私は朽木家当主として、研鑽につぐ研鑽を重ねることに決めた。



とはいえ、私は平時の当主としての務め、及び護廷十三番隊六番隊隊長としての任務
もあり中々時間が取れるものでもない。

そこで私は、愛妹、義妹の寝室のかたすみに置いてあった、おそらく現世で手に入れたものであろう
「あなたも簡単に絵が描ける!楽しいイラスト入門」という冊子を参考に修練に励むこととした。
まったく、このような本に頼らずとも直接申し出れば、私が手取り足取り指南するというのに。

ざっと冊子を見渡すに、私の「わかめ大使」どころか、我が愚妹の一連の創作物にも
至らない、お粗末ないらすと?なるものが多数並んでいる。
初めは、一体このようなものが何の参考になるのか、不思議でならなかった。

だが、下学上達という言葉もある。
一先ずは、最初より読み進めてみることとしよう。


まずは、「毎日必ず書く練習をしましょう!」とある。

うむ、毎日か……


私の予定からいって、1日そう何枚も書けるものではない。
だいたい、あれ(わかめ大使)を書き上げるには、多大な集中力を要する。

ならば、1日1枚、つまり【一日一わかめ】を目標に修練を積み重ねることが
上達への早道となろう。


しからば、早速いや、まて。私自身朽木家当主及び六番隊隊長として多忙な日々を送っている。
私がよもや【一日一わかめ】を失念するということはないとは思うが、物事に絶対はない。


先にも申した通り、この「わかめ大使」には尸魂界と共に歩んだ朽木家の理、
いわば森羅万象が描かれている。「わかめ大使」の完成は、
朽木家、さらに尸魂界の発展に貢献できるものと考えている。


できる限り、この【一日一わかめ】を失念せぬよう何か方策はないか・・・


そうだ。ルキアが以前、真央霊術院の試験の際に、不思議なことをしていたな。
確か、分からないところを書いて目につくところにペタペタ貼っていたような
私は試験というものに、そのような方法を使ったことは一度もないが、意外と役に立つのかもしれない。

ならば、善は急げ、早速取り掛かることにしよう。




数日後、家令は当主の自室で実に不可解なものを見るはめになった。

「白哉様これは?」

「掛軸だ」

「いえ……そのここに書かれておりますこの【一日一わかめ】とは、なんでございましょうか」

当主は家令に静かな一瞥を与えた後、

「字の通りだ」

とその後何も語らない。



家令は思う。


「試されているのか?」

と。


朽木家に仕えて、数百年。今まで様々なことがあり、人間模様もあった。
厳格な主もいれば、温和な主も、平民を人とも思わない主もいた。
年月と共に、どのようなことがあっても、家令として、あらゆる対処を身に着ける
ことができると自負していた。


しかし、目の前にある、【一日一わかめ】という掛軸。


数百年に渡る家令として仕えてきた自身の歴史を超特急で紐解いてみても、



正直読めない。その意図が。



字のままに「一日一回わかめをとりましょう」なのか、それともこの間、
主に見せられた何だかよくわからない珍妙な物体のことを指すのか。

なんとなく後者なような気がするし、実際そうなんだろうという家令としての
嫌な勘は働くが、後者だからといってアレをどう扱えばいいのだ。

そして何よりアレを認めたら、自分が手塩にかけてお育てした、
眉目秀麗、才色兼備、「朽木家の奇跡」といわれるまでに成長した御当主に
【はっちゃけた天然】と【壊滅的な画力】といういらんモードが追加されることになる。
いやだ、それだけ(現実)は認めたくない。

しかし、当主の意図を読み取れず、2度聞き返すというのも、
家令としてのプライドが許さない。


ここは、


「左様でございますか……」

と言葉を濁して、より現実的かつ無難な方向でやり過ごすことにしよう。


わずか2秒ほどの間に、壮絶な思考のバトルを繰り広げている家令をよそに、
天然な当主は言葉を続ける。

「ところで、ルキアはいつ現世より戻る」


き た よ。


家令は、予測どおりの質問に安堵し、ひとまず先の思考のバトルを中断する。

「任務終了まで、おそらくあと3ヶ月程の予定でございます」

「そうか」

ここで言う「そうか」は、「あと3ヶ月、朽木家の名にかけてルキアを安全にかつ、
他の男にたぶらされないように徹頭徹尾守りぬいて、私の所に連れてこい」

の略である。

初めは当主のこの意図が読めず、現世での駐在任務の際に見逃すなど手痛いミスもしたものだが、
この方のシスコ……義妹に対する深い慈悲にも慣れた。手抜かりはない。

「それでは、失礼致します」

目を伏せて、当主に了解の意を伝え、静かに主人の部屋を後にする。


「今のように、いずれ「わかめ大使」にも慣れる日が来るのだろうか」

家令は、自分の頭に沸いてしまった「わかめ大使」という単語を掻き消すように、
廊下を小走りに去っていった。




再び白哉の部屋。


家令が去ったのを確認した白哉は、【一日一わかめ】と、どどーんとかかれた掛け軸の
作品名:拍手 作家名:梶原