乳帰る
つまり、こういうことである。
ルキアと白哉が二人で仲良く散歩していたらむこうから実に
けしからん服を着た色っぽいねーちゃんがあるいてきました。
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いつもは微動だにしない白哉の眼球が右斜め下36°に動いたのを
確認しました。その先にあったのはたわわな乳でした。
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白哉がほんの小さなため息をついた気がしました。
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早速、部屋で雑誌見ながらマッサージとかしているところに
都合よく白哉が来ました。
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なんかすごいこと言われました。
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現世に来て頑張っています。←今ここ。
あまりの馬鹿馬鹿しさ、つい箇条書きにしてかいつまんでしまったが、
まあそういうことだ。
「なるほど。つまり白哉がむっつりスケベかどうか気になる、ということだな?」
「まったく違う。何を聞いていたのだ貴様は」
「いや、お前の説明を聞けばそういう風にしか捉えられ」
「無礼者!誰だそれは!」
「?」
ルキアはスーっと息を吸い、一護の胸倉をつかみ一気に言った。
「兄様の正体がむっつり助兵衛なる者だと!兄様は兄様。
正真正銘、朽木家第二十八当主であらせられる御方だぞ!」
「お前、もしかしてむっつりスケベの意味知らない、つか人だと思って、……
まあいいか」
そうか、こいつは馬鹿ではないが、その枕言葉に大きく「天然」がついたんだった
と一護は嘆息する。
そして、胸倉からそっとルキアの手をのかせて、彼女の肩をがしっと掴み
しっかりと彼女の目を見てこう言った。
「お前に、言っておきたい重要なことがある。一度しか言わないからよーく聞けよ」
「う、うむ。承知した」
「胸の好みに【属性】があるように、男のため息にも【意味】がある」
「意味か……深いな」
「お前な、もう一度ため息やってみろ。白哉の」
ルキアはやってみせた。文字でお伝えできないのが至極残念だが、
彼女はありったけの演技力で、「その時の白哉のため息」を見せた。
「なるほど……、このため息の質はアレだな」
「アレとはなんだ?」
一護は腕を組み、何やら考えこむような仕草をし、こう続けた。
「これはな、『義妹の胸が小さくてけしからん』というため息じゃないな、
むしろ、『あの女、不届きな服を着よってけしからん』のそれだな」
「そこまでわかるものなのか!?」
ルキアは驚きの眼差しで一護を見る。
「あったりめーだろ。そのため息がわからなくて男やってられるかって」
「ほう、殿方というのは、女性には計り知れない何かがあるものかも知れぬな」
それで納得するルキアもアレだが、ノリにまかせて、
段々酔っ払って新入社員に説教する入社三年目のヒラ社員のようになっている
一護も一護である。
まあ、背後にある無数の刃の霊圧も突っ込んでこないのでこの解釈でいいのだろう。
その結論にひとしきり感心している様子のルキア。
一護は満面の笑みを浮かべ、再びルキアの両肩をがしっと掴む。
「というわけだ。お前帰れ」
「嫌だ」
「何で」
「まだ私は貴様の「にんてんどう うぃーふぃっと」を堪能しておら……」
皆まで聞くことなく、一護は静かな笑みを浮かべたまま、ルキアの
首根っこを思いっきりつかむと、彼女の荷物ごとブーンと投げて
窓の鍵をかけ、カーテンを閉め、冷房を消した。
その後ルキアがいくら叩いても、その窓が再び開くことはなかった。
現世より穿界門を経て、一人の女がトボトボと歩く。
その道の先には、懐かしい一つの影が彼女を待っていた。
「兄様、申し訳あり……」
「帰るぞ」
彼はそう一言だけ言うと、静かにルキアから荷物をとり、もう一つの手で
彼女の手を握り、二人肩を並べて帰路に就いた。
その途中、白哉が本当に言いたかった彼の真意を彼女に告げたかどうかはまた別の話。