二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

誕生日

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
俺の誕生日は、7月15日。
たまに4月になったり12月になったりするけど。


なんでかって?
「ねえ、黒崎君って誕生日いつ?」なんて聞かれたとき、
なんとなくその時思いついた日をテキトーに答えた、そしたらそうなった。

本当の俺の誕生日を知ってるのは、たぶん家族だけじゃないかな。

元々誕生日自体に興味もないし、仲の良い奴らは
俺が誕生日を適当にはぐらかすの見たら、それ以上聞いてこなかった。
それでも、空気読まずにしつこく聞いてくる奴は、
そもそも例え俺が本当の誕生日を教えたとしても
何をするでもなくスルーするぐらいの距離感だから。

特に問題はなかった。そしてこれからも。

いつも通りに過ごしていたら今年もまた7月15日がきた。


俺が生まれた日。
おふくろの年にまた一つ近づいた日。
そして、年を重ねてまた一つ、おふくろが遠くなった日。


今日は早く帰ってこい、とあのバカ親父からメールが来た。
たぶん、今日は俺の誕生会。
この年になってまでいいよ、なんて言うと、容赦なく親父の鉄拳が飛ぶから逆らえない。
今夜も、焼肉とでかいケーキが食卓に並ぶ。毎年同じとてつもなく食い合わせの悪いメニュー。
おふくろの席もそこにある。そして今年は奇妙な同居人も一緒だ。
今日は尚一層、焼肉をめぐる攻防戦が繰り広げられるだろう。
何しろいきなり転がりこんできた女は、遠慮というものを知らねえ。

今日に限って色々妙なことがあった。

昼休みの話だけど、昨日クッキー作ったんだけどあげる、
っていきなり井上からプレゼントをもらった。

井上の味覚センスを知っている俺が戸惑っていると、井上は石田くんに手伝ってもらったから、と
俺の返事を待つことなく手に持った小箱を開けた。
上手に形取ったクッキーの甘い香りが辺りに漂った。
井上は、クッキーをひょいと手にとるとそのまま俺の口に押し込んだ。
正直、上手かった。
これは9割石田が作ったな、とあいつの姿を探したがいなかった。
井上の頬が少し赤い。
俺の口の中に奇妙な甘さを残したまま、井上は、じゃあね、と言って小走りに教室から去っていった。

その次は、帰り際。

バカ親父の鉄の制裁をくらうのはまっぴらだから早めに帰るか、と教室を出ようとしたときだった。
後ろから黒崎くん、今日掃除当番だよ!と言われた。
しまった、忘れてた。
しかも今日に限って一番時間がかかる3階の理科室かよ、
でも、さぼるわけにもいかねーし仕方ねえな、とカバンを置き
モップを取った瞬間、後ろからすごい力でモップを引っぱる奴がいる。
振り向くと茶渡がいた。
なんだよ、とモップを引っぱり返そうとしたが離さない。
そして、今日は俺が当番代わるからお前は早く帰れ、と朴訥とした声で茶渡は言った。

そして今だ。

俺の鞄には、大量のコンビニおにぎりが入っている。
茶渡に掃除当番を代わってもらい、家路につく途中、
今度はいきなり、空からコンビニおにぎりが大量に降ってきた。

見上げると十一番隊のアホコンビが何か得意げに笑っていた。
彼ら曰く、コンビニおにぎりというのは全世界における叡智の結晶であり、
背後には大きなバックがついている。現世でこの秘密を知る者は二人といない、
お前ら現世の人間はそれに気づかず、唯食すのみだが特別にお前にだけは
この秘密を教えてやる、このおにぎりを隅々まで観察しろとかなんとか。
突っ込むのもアホらしいので、とりあえず全部拾って鞄の中に詰め込んだ。

バカだ、あいつら。
井上も石田も茶渡も、そして一角も弓親も。
俺が誕生日にを避けているのを知ってて、
それでも押し付けがましくないように、俺を祝う。


本当に優しい。
だから辛い。

もちろん、俺だって誰かの誕生日があれば素直に祝うし、
その行為は極当然だとも思う。
ただそれが自分に向けられると、何かこう、少し違和感を感じる。


誰かと過ごした楽しい時間、団欒の声、それそのものが
時に悲しみになるということは、失ってから初めて知った。


おふくろが「今日は早く帰ってきなさいよ」と皆に言う。
9歳の俺はわくわくしながらおふくろの待つ家に帰る。
おふくろが作った手作りケーキが食卓を飾る。
ケーキに立てられた蝋燭は10になることはなく、それから増えることはなかった。

あの雨の日から俺は、誰かに祝ってもらうことが苦手になった。

俺がもし自分を誰かを守りきれずに事切れたとして。
俺と過ごした、楽しく愛しい時間が一つでも多ければ、その分だけ
悲しみが追加されてしまうことになるかもしれない。

だから、最初に笑うことをやめた。
その次に、おふくろと過ごした時間を少しずつ、心の奥にしまって、閉じた。
最後に、誰とも深く付き合うことをしなくなった。
作品名:誕生日 作家名:梶原