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君に贈る花歌

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美しい女に訪れた、あまりにも無残な最期であった。

かろうじて上半身のみ残された遺体から、やっと所属の部隊が十番隊であることが判別できるといった惨状だった。
他に同行した者達は、塵芥をかき集めても、骨すら残らなかった。惨劇を覆うがごとく、彼女の周りにはたくさんの花が敷き詰められた。そうしなければとても直視できる類のものではなかった。
花よりも多く、たくさんの者が悲しみにくれた。それは美しい死でもあった。彼女は明るく優しかった。だからどんな隊員にも慕われた。
背の低い白髪の少年が、彼女に花を手向ける順番が訪れた。会場内に嗚咽が漏れる。
彼女は常々、尊敬している人は日番谷隊長です、と言っていた。それが一層人々の悲しみを誘った。そして、こうも言っていた。私が一番憧れている人は松本副隊長です、と。
少年の後から、美しい豊かな金髪を携えた女が一輪の白い百合を彼女の耳下に置く。

見目麗しいとは、お世辞にも言いがたい女だった。背は小さく色は浅黒く、欠けた八重歯が印象的であった。それでも乱菊は、この百合は彼女に一番よく似合うと思った。   
おっちょこちょいでしょっちゅう乱菊の後をついてまわってはよく転んでいた。酒が弱いのに乱菊の真似をして、ひっくり返ったことも度々あった。それでも、朝になったら誰よりも早く隊舎に入り、誰よりも熱心に隅々まで掃除をしていた。本当に美しい女だった。
乱菊の番になって、より一層の嗚咽が響いた。こらえきれないと場を後にする者もいた。
日番谷が、「すまない」と一言だけ呟いた。それを乱菊だけが聞いた。乱菊も言葉をかけようとしたが、声が出なかった。それよりもこの百合に囲まれた少女の顔を一秒でも長く見ていたかった。花は悲しみを一層彩るためにあるものだということも知った。
しばしの後、彼女は煙となって空に消えた。
どこにでもある、ありふれた隊葬はこうして終わった。

何事もなく日が変わった。
いつも通り、朝から雑務が隊員達に降りかかった。
先日の件は、十番隊にとって数ある業務の一部として追いやられた。
それでも絶命した隊員五名のうち一人が、ある下級貴族の唯一の跡取り息子であることがほんの少し事をややこしくした。日番谷と乱菊は、その貴族の家に赴いて、通り一編のお悔やみと共に事の仔細を説明した。特に長い時間を必要とはしなかった。途中で故人の母親が卒倒し、その場がお開きとなったからだ。
日番谷はほっとした。遺体の状況を詳しく話す手間が省けてよかったと正直に思った。いくら場数をこなしたといえど、御宅の息子さんは数多の肉片となってしまったので全部を集めることができませんでした、などとは言いたくもなかった。
跡取りの途絶えそうな家の者の恨みが日番谷と乱菊を包む。二人はただ無言で宅を後にした。特に感じることはなかった。ただ、自分の死に卒倒するほど悲しむ者がいることは幸いだと思った。そして、悲しみを表に出すことのできない自分達の立場を少し呪った。

一方、一応の形となって発見された少女の死後の手続きはごく簡素なものだった。
最下層に近い流魂街出身の者だったので、近親者、友人その他の行方は不明、もしくはすでに死亡していた。少女は共同墓地に葬られることになった。共同墓地にすら出自等が多少関わるので、彼女は最も外れにある洞穴のような場所に埋められてしまう所であった。しかし、日番谷が少し手を回してなんとかそれを止めた。
それでもあまりいい場所とはいえなかったが、どうにか墓の体裁を整えることができた。明るく、生前誰からも愛された少女の残したものは、ほとんど板切れに近い卒塔婆と二人が用意した少しばかりの花束だけであった。
偶然、少女の墓の隣が桜の木であったことに二人は安堵した。特に手入れをされたわけでもないがもうすぐ美しく花をつけそうな大振りの若木だ。少しの慰めになってくれればいい、二人はそう思った。

慌しく日々は過ぎていった。
悲しみは続いていたが、それは表に出ない範囲のものだった。皆、日々の任務に追われ、言の端に彼女の話題が出ることも少なくなっていた。いつのまにか、隊舎の隅に少し埃がたまるようになった。しかし、積極的に掃除をしようとする者はいなかった。拭いてしまうと、彼女の面影まで拭ってしまいそうで、と女性隊員の誰かが語るのを聞いた。なので、日番谷は、しばらくはそのままにすることにした。
乱菊はいつも通り明るかった。というより、隊葬が行われた日となんら変わることはなかった。相変わらず仕事をサボり、酒を飲み、皆を笑わせ盛り上げた。
そんな乱菊の様子を見て「あの子は生前あんなに乱菊さんのことを慕っていたのに」と陰口を叩く者もいた。日番谷は、皆の前で嘆く程度の悲しみならばどんなに救われるか、と少し不快に感じた。ただ、それと同時にこの者が隊を率いる立場になったとき、自分達の真似はしてくれるな、とかの者の背中に語りかけた。人の死を大いに嘆き、悲しむべき時に悲しむことができるそんな死神になってほしいと日番谷は思った。
作品名:君に贈る花歌 作家名:梶原