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影踏み(1)

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2−影の輪郭



「はぁっ、ぁっ、はっ…」

夜のパリ市街をロマーノは走っていた。何かを振り払うように。フランスの家からどこをどう走ってきたかなんて分からない。振り返りもせず、ただ、ただひ
たすらに。

「(俺…一体何してんだ?)」
また…いや、まだ、"様"付けするなんて、吹っ切れてない証拠だ。
今はあのときとは違う、すでにイギリスの脅威に怯える必要はないはずだ。

「(それなのに俺は……。っ!?)」

綺麗に舗装されているように見える街の道でも段差はある。光の少ない夜道では、今のロマーノの心理も手伝って、それが見えずにつっかかり、バランスを崩
した体は危うく前に転びそうになってよろめいた。
何とか転ぶのだけは避けられたが、休みなく走り続けた足にはかなりの負担になったようで、うまく歩みを進めることができなくなった。ロマーノはため息を
ついて、道端に腰を落ち着けた。

「(本当に、俺何やってんだ…?そういえば)」

――スペインはどうしたんだろう?
先程フランスの家を出たときからしばらくは後ろから自分を追いかけてくる足音と、彼が自分の名を呼ぶ声がしていたような気がしていたのに。
乱れた呼吸を落ち着けるために深呼吸を繰り返すが、なかなか元に戻らない。
こんなに走ったのは久しぶりだ。基本的に怠け者でさぼり癖のあるロマーノが日常走ることなど皆無なのだが…。自分の家付近に蔓延るマフィアから逃げる以
外は。
今回は何から逃げたかったのだろうか。分からない。
――いや、何となくは分かっている。だから尚更分かりたくはなかった。

「こんなとこで何やってんだ?お前…。イタリアの兄貴、の方だよな?」
「…!!?」

俯いて道端に座り込んでいたロマーノの頭に誰かの声が降ってきた。

姿をその瞳に映すまでもなく、その声の主が誰か、分かってしまった。
わかってしまったからこそ頭を上げられなかった。

「おい、聞こえてんのか?まさか寝てるわけでもないんだろ?」
「……。」

寝たフリができたらどんなに良かっただろう。しかし先程過敏に反応してしまって肩を震わせたのが見えてしまったはずだ。だからこそ彼も「寝てるわけでも
ないんだろ」と言ったのだ。

「は、はい…聞こえています、イギリス…様」

今度は顔を上げて返事をした。暖色の街灯に照らされた金髪はオレンジ色を帯びていて、普段とは違った輝きを放っていた。自分を見下ろしている瞳は金色の
睫毛と混じってより深い碧となり、まっすぐにロマーノを見ていた。

「様…?…あぁ、お前まだあのときのこと忘れてないのか。いつまで気にしてんだよ?」

からかうように軽い口調で言ったが、返事をしたとき以降、イギリスから視線を逸らし続けているロマーノの様子を見て、イギリスは口の片端だけを上げて、
ニヤリと笑った。イギリスは、新しいおもちゃを見つけた気分というよりは、昔遊んでいたおもちゃを久しぶりに見つけたような懐かしい愉しさを感じた。




「…と言ってもそうそう忘れられる訳ないか。あのとき俺は楽しかったがお前はそうもいかなかっただろうからな」

イギリスは特有の皮肉った言い回しを使い、嘲笑ともとれる口調で、実に意地の悪い顔をしてロマーノに言葉をぶつけた。

彼をあまり知らない者なら、こんな口調で、こんな表情で話すなんて意外に思うだろう。仮にも英国紳士、このような口ぶりは「らしくない」と思うだろう。
しかし、昔から彼を知っている者なら、ため息をつきながら思うに違いない。
「あぁ、また悪い癖が出たか」と。

「あのときのお前は最高に笑えたぜ。あいつの影をチラツかせるだけで、どんなにひねくれていても素直になりやがる。そんなにあいつが大事かよっていつも思
ってたが…」

イギリスが屈んだかと思った瞬間、ロマーノのジャケットの襟をつかんで無理やり自分の方へ引き寄せた。いきなりのことで力を入れられなかったロマーノの
体は、そう強くない(とはいえ、ロマーノよりは強いだろうが…)イギリスの腕力でもたやすく引き上げれてしまった。そうして至近距離から冷たい言葉を放つ。

「そうじゃねぇんだろ?お前、自分が大事だったんだろ?昔から弟と一緒でいろんな奴に切り売りされてたから、あいつがいなくなったら戦う力を持たないお前
はまた違う奴のモンにならなきゃなんねぇ。それが不安だったんだろ?」

(まぁ逆に言えば、離れたくないほどあいつの隣は居心地が良かったってことだろうが…)
とは思っても何だか癪だったので言わなかった。
ロマーノは何も答えることができず、ただ視線を逸らすだけで僅かに抵抗するしかなかった。それが気に入らなかったのか、イギリスはロマーノの顎を片手で
上げて自分を見ることを強制した。
怯えたような深茶の瞳が自分を見ていることに優越感を覚えるとともに、一種の満足感も感じていた。

「なぁ、何か言ってみろよ。それとも前みたいにひどいことされねぇと言うことは聞けねぇか?」
「け、決してしてそのようなことは…」
「じゃあどうだってんだよ?…あぁ、そういや"あいつ"、最近生意気だからお前に責任とってもらうのも悪くはねぇかもな…?」

「このアホが!ロマーノに何しよんねん!!」


作品名:影踏み(1) 作家名:朝凪奏