二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【幻水2】White Love【カミマイ】

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


 もう一度、カミューは軽く溜息をつき、テーブルの冷めきった紅茶を一口含んだ。
 カミューとて、マイクロトフのことを考えなかったわけではない。マイクロトフと離れたくないと気持ちは、きっと彼より強いだろう。
 彼に相談するより先に副長に伝えたのは決心を鈍らせないためだった。
 マイクロトフの止めに、この旅立ちの決断を取りやめににすることはないだろうが、きっとあの瞳で止められたら旅立ちの日を延ばしてしまうだろう。
 ------だが、どこかで期待していたのだ。マイクロトフと共に旅立てることを。
 カミューは甘い自分の考えに自嘲気味に笑うと、再び紙面に視線を落とした。
 自分も行くと、マイクロトフに言われたらどんなに嬉しいことだろうか。カミューは笑う。だが、その言葉は決して聞くことはないだろう。そして、例え言われたとしても。
 マイクロトフのことが頭に浮かんでは消え、カミューは読書に集中できずにいた。頭では本に向かっているのに、心がマイクロトフを忘れさせずにいる。
 こんな女々しい行動に微笑み、雪の降るしんとした窓の外を見た。
 白い氷の結晶は音を立てずに降り続け、窓の枠にも数センチほど積もっていた。
 雪の白さのせいか、あたりは白く明るい。
 視線を窓から室内に移そうとした刹那、視界の端に青い人影が映った。
 マイクロトフかと思い、注意して見るとやはり彼だった。気がつくと、カミューは立ち上がり窓に歩み寄っていた。
 冷たい窓ガラスに手をあて曇った部分をこする。マイクロトフは向かいの棟のバルコニーに立っていた。位置からすると、第二会議室だろうか。
 マイクロトフは空からの雪を気にすることもなく、ただまっすぐ前を向いて立ち尽くしている。何をやっているんだ、とカミューは出口に向かおうとするが、先程のことを思い出し足を止め戸惑った。
 もう一度、窓を振り返り、雪の中の青を見つめる。胸の中のしこりが大きく膨らみ、せつなくて眉をひそめる。どうして、こんなにも彼が恋しいのか。
 カミューは踵を返すと、今度は立ち止まることなく出入り口の扉を開けた。廊下の空気は冷たく肌が引きしまる。カミューが歩くコツコツという音が、灰色の廊下に響いていた。
 会議室に入ると、バルコニーに面したガラス窓からマイクロトフの姿を確認することができた。カミューはその扉をゆっくりと開け、外に出た。
 雪の降る寒さに背筋が伸びる。カミューは雪に残ったマイクロトフの足跡を追うように歩を進めた。マイクロトフは振り返ることもなく、ただ黙って前を見つめている。カミューは彼の背後で立ち止まると、その長い腕でマイクロトフの背中を包んだ。
 マイクロトフの暖かさを感じ、目を細める。
「カミュー…」
 マイクロトフは胸で組まれたカミューの手にそっと触れ、名を呼んだ。
 誰の元にも公平に降る雪は、二人の体にも舞い降りる。マイクロトフの黒髪にも、カミューの飴色の髪も白い雪は降りていた。
「……ここから、マチルダの街が見えるだろう?」
 明け方から降り始めた雪は、マチルダの街を白く染めていった。いつもは色々な色の屋根も皆白く、石でできた道も雪の色をしていた。
 背の高い杉の木に降り積もった雪が、きしむ枝に揺られ落とされる。
 それでも降り続ける雪は、この街の空間さえも自分の色に染めていた。
「街を…見ていたんだ」
 マイクロトフが話すたびに、白い息が中を舞う。
「雪の街だな」
 カミューがそういうと、マイクロトフは軽く笑う。
「俺たちの育った…美しい街だ」
「ああ」
「カミューにとって…マチルダとは?」
 カミューの質問にカミューは少し考える。
「長年住んでいるからな…故郷だと思っている」
「グラスランドは?」
「………故郷だ」
 カミューの低く呟いた言葉に、マイクロトフは目を閉じ少し微笑む。
 カミューは雪のマチルダを眺めながら、マイクロトフの質問を意味を探した。
 二人とも無言になった。気まずい空気が流れているのではなく、二人ともただ雪の中に溶け込んでいた。
「……グラスランドでも雪は降るのか」
「ああ…マチルダほどではないが降る。降らない年もあるけど」
「……マチルダの雪はこれで最後になるんだな」
 マイクロトフがゆっくりと落ちていく雪のかけらを見つめながら呟いた。カミューの体が一瞬緊張する。
「マイク……」
「俺は…お前についていきたいと思う」
「マイクロトフ」
 カミューは心が満たされるのを感じながら、強い口調で名を呼んだ。
 騎士として、このマチルダをまとめる責任をマイクロトフだけに押し付けて去る自分を卑怯者だとカミューは思う。たが、マイクロトフをつれていくことは許されることではなかった。
「-----だが、したいことと今するべきことは違う。俺には、このマチルダを守る義務がある」
「マ……」
「騎士としての責任だけじゃない。お前が…カミューがグラスランドに行くのなら、俺はこのマチルダを守らなくてはならない。お前のもう一つの故郷を」
 カミューは大きく目を見開いた。
「----それが…お前を愛する…俺の義務だ」
 カミューは大きく息を吸い、目を閉じた。マイクロトフを抱きしめる力が強くなる。カミューはマイクロトフの肩口に顔をふせ震えた。
 マイクロトフは耳を赤くし、まっすぐ前を見つめ奥歯を噛みしめていた。胸からこみ上げてくる感情をこぼさぬために。
 お互いの心音だけが聞こえていた。
 せつなさに震える心に響くように。
 冷たい雪は、そんな二人を包み込むように静かに降り続いていた。



 白い夜。
 別の道を進もうとしている二人は、過去のことを肴に笑っていた。
 その二人には、別れる悲嘆さえ感じられない。心の奥底に密閉して隠し、今互いの隣にいることを喜び笑っていた。
 しばらくして、カミューが雪の中にいたあの時、どうして寒さを感じなかったのだろうと不思議そうに語ると、マイクロトフは静かに微笑すると当たり前のように低い声で言った。


「二人でいたからだろ」