【幻水2】雪の天使のおくりもの【カミマイ】
「…カミューさん?」
ヴェルの声に我に返る。
すっかりカミューの恋人に興味を持ったヴェルはその人のことを聞きたがった。白いカップのココアをすすりながら、きらきらとした瞳でカミューを見つめる。
「どうして、そのマチルダってとこに置いてきちゃったの? その人もついてきたかったはずだよ」
きらきらの瞳から目をそらして、カミューはワインを一口含んだ。
「……何故だろう」
「カミューさんもわからないの? へんなの」
頬を膨らませるヴェルにカミューは笑い、もらった飾りを揺らした。
「どうもありがとう。これは大切に取っておくよ。いつか使える日がくればいいけど」
いつか彼と天使を作ることができるだろうか。
「あ…あの…それなんだけど…もし、あたしが大人になってカミューさんが一人なら、あたし一緒に作ってあげてもいいよ」
「ヴェル?」
「カミューさんを候補にいれてあげる」
頬を赤くさせて笑うヴェルにカミューも照れて笑った。
幼い少女の恋人候補になれるとは光栄なことだ。
「それはありがたいな」
「うん! でも、あんまり期待しないでね、あくまでも候補だよ、候補。カミューさんには大切な人がいるんだからね」
にっこりと笑うヴェルは照れ隠しのせいか残りのココアをごくごくと飲み干そうとする。
そんなヴェルに微笑んでいると、ベルの音と共に再び冷たい風が入り込んでくる。そばの扉が新たなる来客を迎えたのだ。
無意識に入り口に目をやったカミューの顔は一瞬して驚愕の表情に変わった。
「マッ!? ……っ」
驚きのあまり勢いよく立ち上がり、後ろで椅子が倒れたのも気づかなかった。
扉の前に現れた客は、あの恋しく愛しい彼の姿だった。旅人の外套を着込み、足元のブーツには雪がこびりついている。外を歩いてきた寒さのため頬が白くなり、少し痩せたように見える。
「カミュー……」
久しぶりに見た彼の笑顔と声は、カミューの心を震えさせ、言葉を失わせた。
「ど…して…ここに……」
振り絞って出した声も震えている。
「あ、あの…その……」
マイクロトフは困ったように言葉を探しているようだった。
「あの、たまたまっ、ちっ、近くを通りかかってな!」
そのあらかさまな嘘にカミューは一瞬固まり、吹きだした。
こんな遠くにたまたまくることは絶対にないだろ、マイクロトフ。
つくづく嘘の下手な奴だと、マイクロトフの優しい嘘にカミューは泣き出しそうになった。
「……カミュー」
自分の名を呼ぶその声に軽い痺れを感じながら、カミューはマイクロトフに歩み寄り、優しい声で言った。
「とりあえず、雪の天使を作らないか? マイクロトフ」
作品名:【幻水2】雪の天使のおくりもの【カミマイ】 作家名:ume