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【幻水2】雪の天使のおくりもの【カミマイ】

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 柔らかい粉雪が、さらさら、さらさらと舞い降りてくるのを、カミューは窓辺に立ち見つめていた。
 壁に右肩をつけ体重を預けていた。暖炉から遠いその窓付近ではいささか寒さを感じるはずだったが、その肌寒さもカミューは忘れているようだった。
 カミューの目線が下に落ち、ふっと口の端が上がる。
 視線をたどると積もった雪に一人分の足跡がある。
「そろそろか」
 小さくカミューが呟くと、どたどたと足音が聞こえてきた。早足で音は近づいてきて、その部屋の前で止まった。
「カミュー! 入るぞ」
 扉を叩く音と同時に聞こえたマイクロトフの声に、カミューは笑いを含んだ声で応える。
「カミュー」
 冷たい外気と一緒に入ってきた喜々とした笑顔に、カミュー笑う。
「嬉しそうだな、マイクロトフ」
「雪だっ、雪が積もっているぞっ」
 マイクロトフは嬉しそうに言って、カミューのいる窓辺に歩み寄る。
「朝から降っているのだし当然だろうな。明日は朝から除雪作業になるな」
「ああ。楽しそうだ」
「…………」
「カミュー。仕事は終わっているか」
「ああ、もちろん」
「じゃ、行くぞ!」
「は?」
 マイクロトフはカミューの手をにぎると出口に向かう。突然のことにカミューは驚いたが、ぐいぐいと引っ張っていく強い力に抗うことなく着いていった。
「さ、さ、さ、寒いぞ…マイクロトフ……」
 抵抗することなくマイクロトフにつれてこられたカミューだったが、外套を着こんでも外の寒さに体が震える。
「一体……」
「カミュー様!」
 何をするつもりなんだ、と言おうとしたカミューの言葉は飲み込むことになる。
 カミューの顔面に雪の塊がぶつかったからだった。
「なっ……」
「やるな、アービング。カミュー、大丈夫か?」
 マイクロトフはすばやくカミューの雪をはらってやる。
「どうやらもう始まっているらしいな、行くぞ! カミュー!」
 マイクロトフは走り出した。それにカミューも着いていく。
「なんなんだ、一体」
「雪合戦だ!」
 雪合戦。その子供じみた懐かしい言葉に、カミューの脳裏に寄宿舎時代のことが浮かんできた。子供の頃、雪の日にクラスメイトたちと遊んだことを。
 カミューは声を高く上げて笑うと、先程のお返しにと、幼馴染でもあり副官でもるアービングに雪を投げた。
 それから二人を含む数人の男たちは雪の中を子供のように走り回り、雪で遊んだ。寒さも忘れ、笑い声を上げ、その子供じみた遊戯に身を投じたのだ。
 しばらくして雪は止み、雲の上で日が落ちたのかあたりはぼんやりと薄暗くなっていた。
 カミューは木の陰に隠れているマイクロトフを見つけ傍に寄る。
「おお、カミュー。アービングに仕返ししたか?」
「ああ。二発もぶつけてやったよ。二発とも顔面に」
「顔面か。お前も意地が悪い」
 くつくつと二人で笑う。
 マイクロトフの頬は走り回ったせいか、うっすら赤みがかかっていた。駆け回ったのはカミューも同じで、彼の頬も少し熱を持っている。
「お前にもぶつけられたな。背中に入って冷たかったぞ」 
カミューが憮然として言うとマイクロトフは笑った。
「子供の頃を思い出すな。カミューにはよくいじめられた」
「いじめた? 心外だな」
 見つめあい、互いに息を切らしているのに気がついて声を出して笑う。
「神聖なるクリスマスにこんなことをするとはね」
「……楽しかっただろう?」
「久しぶりに腹から笑ったよ」
 カミューはまた一つ遠慮気味に雪玉を作ると、マイクロトフに向かって軽く投げた。それは肩にぶつかり、マイクロトフはの頬はふくれる。
「マイクロトフ、少し抜け出そうか」
 マイクロトフが微笑んでうなづくのを見ると、今度はカミューから手をにぎり引き寄せた。
 城からほんの少し歩いたところにその教会はあった。
 日曜の朝になると、ミサでの歌声が城にまで聞こえてくることがある。宗教を持たないカミューが訪れることは、マイクロトフにつけられてくる以外今までなかった。
 重く大きな扉を開ける。見事に宝飾されたゴシック調の聖堂には、ゴルドーなど街の人たちのの献金で作られたものだった。
 中に入ると他に人の姿はない。暖炉の温もりがまだ残っているので、ついさっき解散になったのだろう。壁際には何本もの蝋燭が並べられ、ともし火がゆらゆらと揺れている。
 正面でたたずむ神の象徴は、静かに二人を迎えた。
 二人が進むにつれて、カツンカツンと高い足音が聖堂に響く。
「神父殿もいないのか」
「めずらしいな」
 人のいない静かな教会とは、とても神聖な雰囲気をかもし出すものだ。ぼえやりとステンドグラスの聖母や天使たちが浮かびあがっていた。白い石の壁が蝋燭の灯り受け、なまめかしい女性の肌を思わせる。
「美しいな……」
「ああ……」
 この光景にマイクロトフが呟くと、カミューはマイクロトフの手を軽くとり、木製の長椅子たちが並ぶ通路を進んでいった。
 そして、パルピット(説教台)の前で止まる。
 過去、何人の恋人たちを迎えただろうこのパルビットは、また静かに一組の恋人を迎える。
「カミュー…何を……」
 何かを察し緊張した面持ちのマイクロトフに、カミューは優しく微笑する。
「……私、カミューは……健やかなるときも、病めるときも、これを敬い、これを慰め、これを助け、生涯あなたを愛しぬくことを誓います」
 穏やかなカミューの瞳を、マイクロトフは呆然と見つめていた。誓いの言葉が終わり、カミューが照れたように笑うとマイクロトフの体は熱くなり、にぎられていた右手を振り払った。
「ばっ、なっ、なっ、何をっ…お、お前は……っ」
 赤くなってうつむくマイクロトフをカミューは優しげに見つめて微笑んだ。その顔がマイクロトフには恥ずかしくて、直視できずに足元を見つめている。
「マイクロトフは? 誓う?」
「ばっ、馬鹿者!」
 マイクロトフは燃えるように赤くなりカミューの元から逃げる。そんなマイクロトフの背中を、あははとカミューは笑って追いかける。
「そろそろ戻ろうか。みんなも心配しているだろう」
 カミューは笑ってマイクロトフの肩を叩き出口へと促す。
「……かう……」
「え?」
「俺も誓うと言ったんだ!」
 耳がキンとするほどの大声でマイクロトフは叫び、すごい速さで聖堂を走り出ていく。
 その背中を見つめ扉が乱暴に閉まると、カミューの頬は赤い実が弾けたようにに赤くなっていった。
「……カミュー様、ですか?」
 呆然と立ち尽くしているカミューの背中に声がかかった。振り向かないカミューに、神父は隣に立ち顔を覗きながらもう一度名を呼んだ。
「カミュー様? どうかされましたか?」
 カミューのその赤い顔に神父は驚く。
「………神父様…私はあまりの幸せに溶けてしまいそうです……」
 カミューの言葉に神父は不思議そうな顔をする。
 カミューはそんな神父に微笑すると歩を進めた。
「Merry christmas」
 そう呟くカミューの足取りは軽やかであった。
 そして、時が到来したことを知らせるカリヨンベルの音がマチルダに響き渡り、カミューは扉を開けマイクロトフを追った。