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階段で◆乾海

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 冷たい冬風が首筋を撫でてゆき、乾は首をすくませた。
 空気が乾燥していた。皮膚が冷たい空気にぴりぴりと痛む。
 乾は息を吐きつつ竹箒を一振りした。
「じゃ、俺たちは向こう側から掃いてくるから、乾たちはここからな」
 校庭端の桜の根元には、カサカサという音を立てて赤く色づいた落ち葉が風にゆれていた。
 遠く校舎からは掃除の時間用のクラシック音楽が流れている。耳になじんだアップテンポの曲だったが、乾を含むほとんどの生徒が曲名を知らないだろう。
 乾たちの班の担当場所は、グランドの砂場から、テニスコートまでの桜並木の直線コースであった。当番は一週間続く。
 テニスコート方面に竹箒を持って向かっていく二人を見送り乾はため息をつく。
「おい、乾ぃ。ぼうっとしてねぇで手動かせよ」
「あ、ああ。ごめん」
 班の仲間に指摘されてフェンス際の落ち葉をかき集める。
 しゃあしゃあ、と二人分の竹箒のこすれる音が連続し聞こえた。
 掃きつつ前に進んでいくのだが、後ろを振り返ると、また新しい落ち葉が一枚二枚とゆっくり落ちてくるのが見えた。
「掃いても掃いても切がないな」
 乾があきれて呟くと、隣の友人が渋い顔をしてうなづいた。
「そうだな。また明日も俺たちが掃除するころには今と同じくらいたまってんだろうよ」
 竹箒の痕跡が乾いた土に残っていた。その上にまた落ちる落ち葉。
 冷たい風はやむことなく、今度は少し強い風が吹く。 ああ、と思うまでもなく、集めた落ち葉が舞っていく。
 急いで緑色の塵取りにとると持ってきたダンボールに入れる。風のせいで少し散らかってしまったが、二人が気にすることはなかった。
「くぅーっ、それにしてもさみぃなぁ。手超冷てぇ」
「俺だって」
 友人が紫色した手を差し出すので、負けずに冷たくなった手を伸ばして触れた。
「俺のほうが冷たいな」
「馬鹿、俺だろ」
 負けず嫌いな勝負に二人して相手を笑った。
「……明日だな。結果」
 しゃあ、と落ち葉を集めながら友人が言うのに乾はうなづいた。
「まあ、受かってるだろうけどね。やっぱり緊張するな」
「受かってるだろうって、お前な。いや、さすがは乾、ってか」
「まあね。俺の場合、部活動の活躍からいっても、合格の確率90%だ」
「………」
「まあ、そんなにうらやむな」
「羨ましがってねぇよ。あきれてんだ。乾、塵取り」
 差し伸べられた手に塵取りを渡す。
 振り返ると、だいぶ進んでいて少し嬉しくなる。
「合否はいいとして…いや、よくねぇけど、卒業かぁ……」
 友人が空を見上げて言うので、乾は同じ気持ちでテニスコートを見つめた。
 その隣人には、先日から付き合い始めた恋しい人がいた。
「やっと受験が終わったのに、次は離れ離れか」
 乾がテニスコートを見つめて言うと、友人は顔を赤らめて怒り出す。
「離れ離れ言うな。一年待てばまた同じ校舎に来るんだし」
「そう言いつつ、二年生の彼女を思うたびせつなくなる高原クンでした」
「うるせーっつの。ほらっ、手動かせっ、手っ」
 笑いながら落ち葉を掃く手に力を入れる。
「そんなこと言ってっけど、乾クンもせつないんじゃねぇの?」
「は?」
「テニスコート見てはため息ついちゃって。離れがたいヤツいるんじゃないの?」
 にやにや顔の友人に一瞬固まり、力なく笑う。
「まあね」
「マジっ? 女テニっ? 女テニ? 誰っ誰」
「さあね」
 笑って言うと友人に背を向けて掃除を続ける。乾は学生服のすそを握ってしつこく聞いてくる友人にただ笑っていた。
 テニス部を引退した後、彼には練習メニューを渡す件で何度か部活に顔を出し会ったし、一年のデビュー試合にも手塚らと一緒に見に行った。
 そう、何度かは彼に会い、そのまっすぐな瞳を見つめ、彼の声を聞いていた。
 しかし、受験日が近づくにつれて、乾自身も忙しくなり、会いに行く理由が見つからず部活にも遊びにいけなくなって。
 それでも、広い校舎の中でたまに顔を見ることもあったが、それは一瞬のことだ。それでもこんなに嬉しくなることを、心が躍るのを、彼は知らないだろう。
 冷たい風が首筋を撫でる。
 彼を想うときと同じ、背中がぞくりとした。

 会いたい。声を聞きたい。
 言葉を交わしたい。
 俺を見つめて。
 そんな想いがあふれて止まらなくなっていた。

作品名:階段で◆乾海 作家名:ume