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一月

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 商店街を抜けると、ようやく鳥居が見える。ここからはもう神社の敷地内で、本殿へと向かう一本道はさっきよりも多くの人で賑わっている。もちろん、両脇には出店がずらりと並んでいる。
「さっきんとこで買わなくても、ここでお参りの後に買えよな」
 阿部が得意気に言うから、オレは睨みつけてやる。
「そういう問題じゃねえよ。お参り前に食べたかったんだよ」
「水谷、やんなきゃいけない事は先にやるって習慣をつけとけよ」
 嫌みたらしい口調で、にやにや笑いながら言ってくる。タレ目の阿部がそういう顔をすると、普通の人の20倍は腹立たしい顔つきになる。阿部のそんな顔にはもう慣れっこだから、別に今ではどうも思わないけど。
 でもでもしかし、なんか今日の阿部は機嫌が良さそうな気がする。寒いって文句言ってたけど、よく喋るし、出店を見る目もなんか楽しそう。
 もちろんオレも楽しいけど。そして、阿部が楽しそうだから、いつもよりももう少しだけ楽しさが増してる。やだな、オレって。阿部に影響受けすぎてる。オレだけじゃ悔しいから、阿部もオレに影響されてくれればいいのに。


 わたがしや、イカ焼きやフランクフルト、甘酒の匂いに誘われながら、阿部とオレはまっすぐ本殿へと進んでいく。寒いんだけど、でも、なんとなくあったかい。正月ってそういう不思議な感覚があると思う。そんなわくわくした気分を味わうために、世の中の皆は寒くてひどい人ごみの中、こうして初詣に来るんだろう。
 それに、今年のオレは阿部と一緒。昨日まで一緒に初詣するなんて思ってなかったけど、こうして二人で並んで歩いてると、今年阿部と来たのが当たり前の事のように思えてくる。これも、正月の不思議な感覚のせいだろうか。


 一本道が終わり、本殿へと到達する。社殿の前の賽銭箱には人が群がり、ちゃりん、ちゃりんとお賽銭の音が響き渡る。
「やっと着いたな」
 人ごみに疲れた風の阿部が呟く。でも阿部、ここが一番混む場所だぜ。
「じゃ、さっさと仕事を終わらせましょうか!」
 お賽銭を取り出すため、オレはカバンに手を突っ込み財布を探す。すると
「水谷」
 阿部に名前を呼ばれる。
 なんかちょっと改まったような言い方だったから、オレは一旦動きを止めて阿部を見た。
「おまえ、金出さなくていいよ」
「へ?」
 阿部の言ってる意味がわからなかった。金出さなくて、って、お賽銭だし、オレはお賽銭をあげるなってことか?
「オレが、出すから」
 呆然とするオレを尻目に、阿部は上着のポケットをごそごそと探り、そこから何かを取り出す。
「手出せよ」
「え、あっ、うん」
 言われるままに手を出すと、ポケットに入れた方の阿部の手が重なり、硬いものが乗せられた。
 阿部の手が離れ、そこに現れたのは、十円と五円だった。
「何これ」
 オレが不審そうに言うと、
「だから、お賽銭」
 阿部はさも当然という様に答える。
「何で阿部が出すの?ワケわかんないんだけど」
 本当にわからない。阿部ってちょっとヘンな奴だと思ってたけど、まさかここまでとは。
「あーもう、だから!」
 しかも阿部はちょっと怒った風な物言いになってるし。ここで阿部が怒るのは、なんかちょっと間違ってると思うけど。
 阿部はすっと息を吸うと、きりっと試合の時のような目でオレを見た。そして、
「今日はおまえの誕生日だから! オレがお賽銭奢ってやる!」
 そう言いやがった。
 今日? 誕生日? お賽銭? 奢り? オレは一瞬思考が飛んだ。だけどすぐに阿部の言葉の意味を理解し、そして一瞬のうちに顔に熱がこもるのを感じた。
 誕生日、って、阿部はオレの誕生日だから、オレのこと誘ってくれたの? それで、お賽銭奢ってくれんの?
 オレの誕生日。阿部はオレの誕生日のこと覚えててくれて、何かしようって思っててくれてたんだ。
 オレはそのことに感動した。まさか、あの阿部がそんなことするなんて。オレはちょっと、阿部のこと侮ってたよ。
 真っ赤な顔をあんまり見られたくないから、オレは俯き気味で阿部に言った。
「えっと、ありがと……」
「ん」
 阿部の声が小さい。もしかして阿部も恥ずかしいんじゃねえの? オレだって恥ずかしいんだから、こんな事すんなよな!
 でも嬉しいから許すけど。
「でもさ、お賽銭奢ってもらったら、オレのお参り効果無くなっちゃうんじゃねえ?」
 阿部の様子を窺うみたいにして、視線だけ阿部に向けてみた。そしたら阿部もほっぺの辺りを真っ赤にして、居心地悪そうな顔をしていた。
 真っ赤なのはオレだけじゃないんなら、オレも顔挙げてやるよ。でもやっぱり恥ずかしいから、照れをごまかすようにして笑いかけたら、阿部はちょっとムッとした表情になった。
「いいんだよ、別に」
「なんだよそれ! 阿部ひどくね?」
 それじゃ誕生日プレゼントになんねえじゃん。阿部、やっぱりちょっと不思議ちゃんなんだな……と思ったら、
「どうせオレとおまえの願い事は同じなんだから、オレが賽銭出しても同じなんだよ」
 そう言った。
 オレと阿部の願い事が同じ、って、それはどういう意味なんだろうか。
 西浦高校野球部の甲子園出場のこと?
 それとも、これからも阿部と……



 と考えていたら、阿部がすたすたと社殿へと歩き始めていく。
「あ、ちょっと阿部、待てよ!」
 オレが呼んでも止まってくれないから、オレは急いで阿部の後を追う。
 どっちの願いでもいいや。せっかく阿部が奢ってくれたんだし、とりあえず、思いつくかぎりの願い事を神様に言っておこう、と思った。
作品名:一月 作家名:ぺろ