嫉妬
どうでもよくなってたわけじゃない。ネコに飽きたわけでもない。日に日に短くなる睡眠の量と、目覚めたときに隣にいる姿、温かくて大きな手が自分の肩に乗っているのをみて、おれは恐ろしさを感じたのだろう。それはおれが、こいつと描きたいものじゃなかった。幸せを感じることなんかいらない。ただ暇つぶしが欲しかっただけだ。心の中に入り込んでくる心地よい低い声が恐ろしい。嫉妬を感じる自分自身が恐ろしいのだ。
「どうでもいいなら、何故あんな顔をする」
「どんな顔してた?」
おれが笑って尋ねると、ドイツはすこしだけ怒っているように乱暴な口調になる。久しぶりだけれどいつものことだった。
「殺されるか、と思った」
美しい手が顎に持っていかれる。ああもういいじゃん、早くヤろう。おれはすばやく立ち上がって腕を回し、ドイツの唇を塞ぐ。キスが下手糞なこいつは、すぐにおとなしくなる。先程まであんなに怖かったのに、やはり経験の差がモノを言う。おれはすっかり飲んでないことなんか忘れて上機嫌だった。
「殺すわけねえじゃん、自惚れんなよ」
ドイツはまだなにか言いたそうな目をしていたが、おれはそれを無視して首筋に唇を落とす。先程のワイシャツの折り目が見える。ドイツは言いはしなかったが、嫉妬したおれに欲情したのだろうか。殺しそうな顔で見てたおれをみて、おれが欲しくなったのだろうか。そう考えると愉快だった。嫉妬したのはおれのほうなのになんだか優位に立っているような気がした。だけれどキスを重ねるうちに、いつのまにかドイツはノリノリになっていたようで、おれの下半身に攻撃をしかけてくる。大きな手でおれの尻を揉みしだくその両手の感覚に、おれの脚がもつれたところを強引に抱き寄せられて、動きが止まる。
「ああいう顔をするな」
耳元で囁く声に酔う。ほんと、パーツばっかおれのツボで、どうしようもない。
「命令すんな…」
やけにでかい背中に首を預ける。面倒くさいのに、嫌いじゃない。
「おれは我慢しているのに…」
小さく呟いたそのことばの意味を、おれは行為が終わって、またすこしだけの会えない間に考えることになってしまった。