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みとなんこ@紺
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日々これ好日。

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「ふ・・・あぁぁああ・・・」
うん、と大きく伸びを一つ。
・・・異様に頭が重い・・・ついでに一定の間隔で微妙に視界がぶれる。
しかし身に付いた習慣とは恐ろしいもので、こんな状況下にあってもおおよそいつもと同じ時間くらいに目は覚めた。・・・覚めたけど。
身体を起こして立ち上がった途端、ふらりと視界が揺れた。
おっと。
久々に味あわされた、独特のこの感覚。(した事ないが)船酔い、とも違う揺れ具合には覚えがある。
・・・なまったかな。
確かにしばらく状況が状況だったもので、すっかり縁遠くなっていたものだが。
・・・結構強い方だと思ってたのに、改めた方が良いのかも。
「しかし信じられねぇ酒だな、ありゃ・・・」
ぼそりと呟いただけの自分の声すら、召喚術でランダムタライを食らった時のようにぐわんぐわんと頭に響く。
こりゃだめだ。
・・・水。

船長さんは一つ息をつくと、普段からは想像もつかない緩慢な動きで船首へと足を向けた。



樽から汲んだ水を喉に流し込むと、いくらか気分もすっきりした。
・・・しっかし。
狭い部屋を見回しても、人の気配はなし。
朝一番早くに起き出すのはだいたいカイルなのだが、普段より今日は遅い。
いつもは朝稽古だなんだとごそごそやりだすと、そのうち起き出してくるスカーレルの姿がまだないところを見ると、彼も珍しく寝坊だろうか。
酒も喧嘩も滅法強いと評判だったはずの若頭も、酒に呑まれた所をついぞ見た事のない後見人の青年でも、さすがに昨日のあの宴会にはやられたらしい。
今までお目に掛かった事のない珍しい酒だったのもあるが、勢いでかなりやってたのが悪かったのか。

まぁ、良い酒だったけどな。

何ともいえない充足感に、自然と笑みが浮かぶ。
何せ和解の末に共闘した相手と酌み交わす、勝利の美酒ってやつだ。
まだ色々と気の抜けない事は山積みではあるのだが、こういうときの、少しの休息ってやつくらい構わないだろう。

少々気分が良くなったところで、もう一杯と器を樽に浸したところ、背後で何処かの部屋の扉が開いた音がした。
どうせいつもの通り、スカーレルだろうとたかを括って振り向かずにいたのだが。
「・・・おはようございます~・・・」
予想外だった人物の声に、カイルは思わず振り返った。
そこにいたのは普段より更にへろり、とした様子の先生さん。会釈の動作につられて夕焼け色の髪がファサ、と揺れる。
本当にさっき起きたところなのか、珍しくかろうじて身嗜みは整えた、くらいのへろへろっぷりだったが、何とか部屋から這い出してきたらしい。
「先生、起きたのか」
・・・というか、起きれたのか。
その中に込められた心底意外そうな響きを感じ取ったのか、彼女は少し眉を困らせて、へにゃり、と力無く笑った。
「何故かペンタくんたちご家族が部屋の中をずっとごろんごろんと転がってる変な夢を見ちゃいまして」

・・・・・・それはまた・・・。

「ヤな夢だな・・・」
というかもし実際やられたら確実に死ねる。
恐ろしい緊迫した場面(ペンタくんの顔は除外)が思い浮かんでしまって、そりゃ寝てられねぇわ、と納得した。
そんな嫌な想像に眉をひそめるカイルにはお構いなしに、先生はふにゃふにゃしながらも、私にもお水ください、と暢気なものだ。
丁度水を掬ったまま口を付けていなかった器を差し出すと、嬉しそうに笑って受け取って・・・一口。
取り敢えず人心地ついたのか、軽い吐息と共に何であんな夢なんか見ちゃったんでしょうね、と首を傾げながら小さく呟いた。
「辞典なんか枕にして寝ちゃったのが悪かったんでしょうかね・・・」
・・・辞典を枕?
きっちり身の回りのものは整頓している先生にしてはまた珍しい事を。
「・・・しっかし・・・あれだけへろへろになりながら帰ってきたってのに、一体何調べようとしてたんだ?」
オレはベッド直行で速攻寝たけど。
確かお開きの後、のそのそ船に帰ってきたはいいが、それぞれ即・自室に引き上げて沈没してた筈だが。
アティはもう一口器に口を付けながら、僅かに首を傾げた。
「・・・実はその辺はよく覚えてないんですけど・・・。帰ってきたら何故か授業の準備しなきゃ、って思っちゃったみたいで・・・教材にしようとしていた本を探して部屋中ひっくり返しちゃったらしくて・・・」
いまお部屋の中、凄い事になってるんですよ。
「でもやっぱり途中で眠気に負けちゃって・・・探し出した本と一緒に、そのままベッドに入って寝ちゃってたみたいです。変な格好で寝てたから首も痛くって・・・」
・・・・・・なるほど?
多少危なっかしくはあったが普通に一人で歩いていたからあまり気にしなかったのだが、外見上に反して結構酔いは回っていたらしい。
ふむ、と取り敢えず様子を窺うが、二日酔いまで行かなくともかなりだるそうだ。
そういえばと思い返せば、昨夜の宴会の席では、側にあの筋金入りの酒好き店主が張り付いていたようだし、あのペースに巻き込まれていれば・・・これはかなり飲まされているとみて間違いないだろう。
手酷く後に引くような質の悪い酒ではなかったとはいえ、入る量が多ければ身体の機能が追いつかないのも当たり前。
――――・・・よし。
「先生、こっち」
「え?」
まだ水の残った器を両手で持ったまま、突然の事に目をぱちくりさせるアティの肩を掴んで自分の方へ向き直らせる。
ポン、と額に手を当てると、カイルは「ちょっとの間だけ目、閉じな」と続けた。
何が起こっているのか判らないなりに、彼女が素直に目を閉じるのを確認してから、カイルは掌へ意識を集中させた。

触れられた掌から、何か暖かい気配が伝わってくる。

じんわりと伝わってくるそれを感じるのと同時に、それまで何かに重くのし掛かられているようだったものが薄らいでいく。
自分の鼓動さえ響いてくるような頭痛も、つっかえていた胸のむかつきや身体のだるさも。
それよりも。
ただ、大きな暖かい掌が酷く心地良くて。
ふ、と小さく息を吐くと自然と力が抜けていった。


「・・・おわり」
「あ・・・」
くしゃり、と軽く髪をかき混ぜて終了の合図。
掌が離れていくのを、何処かで少し残念に思いながら、アティは先程までの身体の辛さがすっかり消えている事に気付いた。
「今の・・・」
「ちょっとばかりストラを、な」
ちっとは楽になったか?と聞いてくるのに神妙に頷いてみせる。
「凄いですね。ストラにこんな使い方があるなんて知りませんでした」
「・・・ま、あんまり褒められた使い道じゃないけどな。酒に負けてる身体の方をちょっとばかり回復させてやったら・・・、結構良い感じだろ」
「もう全然違いますよ。すっごく楽になりました!有難うございます」
たいしたことはしてないのに、楽になったのがそんなに嬉しいのか、一気にほにゃ、と本当に嬉しそうな屈託のない笑顔を向けられると何だか照れくさい。
取り敢えず礼は素直に受け取って、どういたしまして、と返しておいたが。
ふ、と。
「?どうしましたか?」
突然動きを止めてしまったカイルを、軽く小首を傾げるようにして不思議そうに見上げる、その左頬に目をとめた。
さっきはただの光の加減かと思ったのだが・・・。
そうだ。
作品名:日々これ好日。 作家名:みとなんこ@紺