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この手で触れて確かめたい

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 ドイツのことを考えるとき、俺はいつも思うことがあるのだけど。
二つのカップを両手に持ってオレンジ色の差し込む廊下を静かに歩きながら考えた。
ドイツの、例えばその瞳に映る物とか色とか、ドイツはそういったモノをどう感じて生きているのだろうかと。
それにどんな夢を見ているんだろうとか、どんな処で泣きたいと思うんだろうとか、彼女と甘たるいキスを交わすときはどうなんだろうかとか、エロいこと考えてるときはどうなんだろうかとか。
そう考えたとき、俺はドイツになりたいなあとよく思う。
特にいつどんな時にどんな顔でエロいことを考えてるかはすごーく気になって仕方がない。
最近気づいたのだけどドイツの顔の筋肉は体と同じでガッチガチで、ニヤニヤしていてもあんまり表情は変わらないらしくて、だから多分エロいことを考えていても少し口元がヒクヒクするくらいなんじゃないかなあと思う。
だから、もしかしたらあの恐ろしい訓練の時にそういうことを考えていたら、なんてもしほんとに考えてたら俺はドイツのことを凄く尊敬する。いろんな意味でだけれど。
あと、ドイツが俺の事をどうみているのかとかどう映してるのか。
それが俺の一番気になるとこで。
俺より色素の薄いその目に映る俺はもしかしたら少し、美化されているんじゃないのかなあなんて思うときもあってというか確実にされてるんだろうなあって思って。
それがたまにすごく不安になる。
いつかその美化されたところが実は至極ちっぽけな物だったなんて気づいたドイツが、俺に失望するんじゃないかなあって。
それってつまりドイツが俺から離れていく瞬間だと思うし、昔一度だけ見た仲間外れにされる夢が俺はいまだにトラウマで、それが一番怖い事だと思ってる。
それでもし本当に失望されたとして例えばお化けが出たときに、もしドイツがいなかったら俺は何処に行けば良いんだろう。
本当に、一人で眠れない時は?どういう策をとればいいのか白旗でも避けれないような時は?イギリスがでた時は?
少し考えただけでも、両手でも数え切れない程でてきたソレを俺はドイツ以外に誰にぶつければいいのだろう、というよりもぶつけられるんだろうか。

 そこまで考えて、ちょうど辿り着いた目当てのドアを一度だけカップでコツンと軽くノックしてそのままカップを持った右手で器用にドアを開けた。


 「おおードイツは頑張るなあー」
「…お前も少し、何かやったらどうだ」
「んー、でも今日はもう仕事の時間じゃないからー」


 5時を少し過ぎたあたりの部屋は差し込む夕陽のオレンジで満ちていた。
左手にもっていたエスプレッソの入った淡い青色のカップをドイツの仕事机に置いてから、もう片方の手に持っていた自分用にとこの家に持ち込んだくすんだ緑色の大きめなカップを両手で抱えてソファに深く座った。
見るからに熱そうに湯気立つカフェラテをそおっと舌先で舐めながらドイツを見るとカチカチとゴツイ黒色をしたノートパソコンになにやら文字を打っている。
カチカチと一定に打たれるそのリズムが俺は好きで、ぼんやりとその音を聞いてると不意に顔をあげたドイツと目があって「なんだ」と聞かれた。


「なんでもないよ」


 そう笑って言うと、少し不思議そうな顔をしたドイツはだけどまたすぐに作業に戻って、俺はぼんやりとまたその一定に叩かれる音を聞きながらさっきの事を考える。

作品名:この手で触れて確かめたい 作家名:萩野