グッバイ・アーリーバード
エピローグ
「――――一般回線からお電話です」
「…ああ、すまない少尉。帰ってからそっちに寄るつもりだったんだが…」
『――――今どちらにおいでですか』
「・・・何故判るんだね」
『乗っていらした列車はまだイーストシティに着いていないはずですので。…何かありましたか』
「いや、特に問題はない。・・・ただ、ちょっとした事情で一つ手前の駅で降りてしまってね。誰か人を寄越してくれないか」
『勤務時間外は職権乱用とみなされますよ』
「この郊外の工場の視察の件があっただろう。予定を繰り上げて本日抜き打ちで執り行う」
『――――・・・狙っていましたね?』
「そろそろ、と思っていたから丁度良かったよ。あそこの埃は叩けば凄そうだ。使えるのを数名寄越してくれ」
『了解しました』
「ああ、そうだ…少尉」
『・・・どうかされましたか』
「列車の中で、明日着任予定のジャン=ハボック少尉に会ったよ」
『・・・もしかして、途中下車はそれが原因ですか』
「ちょっと、ね。結局、お互い名乗らなかったんだが、くだらない話にも結構のってくれてね。それなりにギリギリの所まで喋ってしまった」
『・・・何を話していたのかは伺いませんが、ほどほどになさった方が宜しいかと』
「判っている。しかしこんな時期に中央から飛ばされてくるなんてどんなヤツだと思っていたんだが。……アレは良い拾いものな予感がするよ。まわしてくれた上に礼が言いたいくらいだ」
『調査結果では結構な書かれようだったようですが』
「テロリストの協力者との内通容疑か? …まぁ女に騙されてやりそうな程度には、人の良さそうな男ではあったけどね」
・・・英雄なんて呼ばれるの、ろくでもないと思うんで。
――――ああ、その通りだ。
「・・・少尉」
『はい』
「彼を見たら、何かを思い出すような気がすると思ったんだが、ようやく判った」
「砂の色だったよ」
『・・・・・・そうですか』
「砂漠にいたのはそんなに昔の事ではない筈なんだがね。・・・さて、どうしてやろうか」
『・・・中佐』
「判っている。ほどほどにしておくさ」
「――――どうやら彼は英雄の肩書きがお嫌いらしいから」
そう言って、彼はひそりと笑った。
「・・・明日が、楽しみだ」
fin
作品名:グッバイ・アーリーバード 作家名:みとなんこ@紺