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いつかの未来で逢いましょう

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 そう言ったのだ。
 はっきりと聞き取れた。

 あの笑顔に、澄んだ声に、真摯な瞳に、純粋な好意に、誰が抗えるというのだろうか。


(彼の微笑みに、僕は見惚れた。愛しいと思った。守りたいと、思った。あの時、僕は真剣に、彼に仕えてみようと思った。あれから数年間、僕は、信頼だけは同じだけ、彼に返す事が出来ていたと思う。自分を危険に晒してでも、彼の為になりたいと思っていた、その気持ちに嘘はない。彼も僕を心底信じてくれていたと思う。…でも、それ以上に大事なことは何一つ……自惚れかもしれないけれど、彼が望んだかもしれない言葉は、言えないままだったんですね…)



 ふわり、ふわり。

 次第に、足下が覚束なくなる。
 酷く心地良い反面、恐怖すら覚える浮遊感が身を襲う。
 真っ白な空間が少しずつ、渦を残してその面積を狭める。

 生命が途切れる時間が、迫っていた。


「……えーっと、それ、自惚れじゃないかも…」

 突然、光の渦の前に人影が浮かぶ。

「……!! あなた、は、」

「待ってたよ、骸」


 声にならなかった。


 そこに居たのは、もう一度逢いたいと願っていた、愛しい人。
 観慣れた笑顔に、優しい声音。
 差し出される手も、生前のままに。

「……逢いたかった。死ぬ前には、叶わなかったから。ここで待ってた。逢えると思ってたから」

「それも直感……ですか?」

「うん。ずっと鈍ってたけどね。最期に一回だけ、感覚取り戻せたみたい」

 ちょっと遅かったけど、と、悲しそうな顔をして、彼は言った。
 死んでまで、彼は自分を責めているのだ。
 超直感を活かせず、様々な選択を誤り、多くのものを失い、仲間に失わせてしまった事を。
 骸は黒いコートを翻し、主の元へ歩き出す。
 数歩で辿り着くと、差し出された手を取った。

「ボンゴレ。僕もずっと……あなたに逢いたかった。逢って、どうしても伝えたい事がありました」

「うん」

「長い間、僕は伝える術を知らなかった。初めの内は、この言葉の意味を知らなかったから。けれど、知ってしまってからは、いっそ伝えられるはずがない、伝えてはいけないと、思いました。許される筈がないと。……だから、遅くなってしまいましたが…」

 恭しく、白い甲に口付けて、骸は告げる。

「やっと、言える。僕はあなたを、愛していました。いいえ、今も、愛しています。……あなたを、愛しています。ボンゴレ」

「……俺もね、ずっと、好きだった。ううん、好きじゃ足らない。好きなんて言葉じゃ全然伝わらないぐらい、愛してる。ずっとずっと、言いたかった。俺も生きてる間は言っちゃいけないって思ってたし、実際言えるわけ無かったから、口に出せなかったけど。こうして、言って、触れ合いたかったよ。幻覚じゃないお前と、向き合いたかった」

「残念ながら、これも実体ではありませんがね」

「はは、それを言うなら俺だってそうだよ。でも、此処にいるのが、本当のお前だから、それで良いんだ。クロームの身体でもない、幻覚でもない、ちゃんとお前自身の魂、だろう?」

「ええ……確かに、こればかりは、僕自身です」


 僅かな間に少年の姿に戻った主と従者は、共に笑い、泣いた。
 それから二人は手を繋いだまま、流れる映像を観る。
 1年、また1年。
 音声は無いけれども、十分にその当時を思い起こす事が出来る場面の数々が浮かんでは消えていく。


「ほんっと、色んな事があったなあ」

「ええ、本当に」


 二人は暫く並んで人生の記録を見続けていたが、映像は、ある日の一場面を最後に止まってしまう。

 24年と数か月目の ―――――― 最後の1枚。

 二人の最期に残された映像はどちらも、不敵に笑う、白い服を着た男。
 途方も無い野望を抱いてマフィアの世界に宣戦布告した男。
 裏社会の枠を超え、世界の未来をも塗り潰そうとしている男だ。
 どうにかして、あの男を止めなければならない。
 あの男に指輪を揃えさせては……「力」を与えてはいけない。


「行こっか、骸。俺達にはまだ、やらなきゃいけないことがある」

「そうですね」


 手を取り合い、向かい合う二人は頷き、姿勢を正した。

 彼らの前には神々しいまでに眩い光が渦巻いている。
 柔らかな白光の奥には、次の生へと続く道が開いているのだろうか。
 二人は未知の世界へと、繋いだ手をそのままに、一歩を踏み出した。
 白い世界に溶けるかのように、二人の姿は徐々に薄れ始める。



 再び繰り返されるのであろう、過去。

 再び繰り返すのであろう、人生。

 どのように変わるのか解らない世界、何処から始まるのか解らない新しい明日の事など解らないけれども。
 振り向かず、まっすぐに進むしかないのだ。


「目が覚めた時には、きっとまた他人なんだよね…。…今度逢う時も、また敵同士からスタートかもしれないんだよね…。なんか悔しいなあ、折角両想いだって解ったのに……」

「構いませんよ。切欠はどうあれ、僕は何度でもあなたを見つけて、最終的に好きになりますから」

「だといいな」

「約束します」

「でも、一回ぐらいは普通に出逢ってみたいよな。友達とか、幼馴染とか、兄弟とか、そういう関係でさ」

「それも良いですけど、兄弟じゃ僕ら、愛し合えないじゃないですか。僕としては、ちょっと嫌なんですがね。……まあでも、それも何時かきっと、叶いますよ。もしかしたら、何処か別の世界では既に叶っているかもしれませんけど」

「ああ、言えてるかも。しかし誰かさんにどっかに飛ばされた俺の本体、どうなったんだろう…。仲間の誰かに拾って貰えてると良いんだけどなあ。どっかで腐ってたりしたら流石に泣ける。……なあ、骸。もし“次”、俺が俺じゃなくなっても、お前、解ってくれる?」

「もちろんですとも。顔が変わっても、名前が変わっても、立場が変わっても、性別が変わっても……僕はあなたを間違えたりしませんよ」

「そっか。なら、良いや。……ああもう、時間が来ちゃった」


 新たな生を迎える二人を祝福するかのように、道の先で赤子の産声が上がる。
 固く結ばれていた指が開かれ、繋がっていた手が離れた。


「……先に行くね。俺、待ってるから」

 薄茶の瞳を揺らしながら、少年は笑い、

「……はい。僕もすぐに追いかけますから、待っていて下さい」

 緋色と藍色の瞳が、それを見送る。

(願わくば、“次の”彼の人生が、彼が望んだ穏やかで暖かなものとなりますうに)

 骸は、そっと願った。
 内なる声が聞こえたのだろうか。
 骸が愛した人は笑顔のまま手を振って、道の先へと消えて逝った。

 間を置かず、同じ光の先にもう一つの産声が上がる。

 元気な泣き声に誘われるように歩き出した骸は、暖かな光の渦へと姿を散らした。



(A presto, il mio diletto.)




 また逢いましょう、愛しい人。





 まだ見ぬ未来で。





 必ず来る、明日で。








End.