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いつかの未来で逢いましょう

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『……そのくらいの事は許してあげよっか。ボンゴレの想いと君の命に免じて、ね。ソレが届いた所で、あの子達が知った所で、生き延びられる保証はないんだし……』


 揺れる視界から消えていく輪郭。

 白い服を返り血で紅く染めながら立ち竦む男の顔は、僅かに、切なげな表情をしていた気が、した。









***









 余りにも ―――――――― 余りにも呆気無い、幕切れだった。






 気付けば骸は、白く霞んだ、孤独の中に在った。

(……僕は……)

 つい先程までの激闘が嘘のような静けさ。
 自分以外には何も無い、空間。
 踏み出す事を誘うように輝く光の渦を前にして、彼は、己の最期を悟る。

(結局……無駄死にですか…。……彼に、彼の為に、何にもしてあげられないまま………)

 藍色の瞳と、幻覚で修復した緋色の瞳から、一筋、二筋、涙が落ちた。
 一度くらい、弱さを曝け出しても許されるだろう。
 どうせ誰の目にも留まる事はない。

 それから程無くして、ぼんやりと脳裏を過り始める、これまでの出来事。

(……走馬灯、というやつですかね。これは…)

 実際の双眸や視覚などではなく何か違うもので視えているのだろう、360度の世界に流れ続ける映像。
 骸は生まれてから今日までの足跡を、彼との出逢いから別れまでを、感慨深げに眺め続ける。
 そう長くない人生だったけれども、色々なドラマがあった。
 こうして視ていると、9割が怒りや悲しみ、憎しみや後悔で彩られていた凄惨な人生すら、愛おしく思えてくるのが不思議だった。

(懐かしい……何もかも……まるで昨日の事のようですよ…)




「主」であった青年との出会いは、9年と数カ月前に遡る。
 互いに、心身共に子供だった頃だった。

 出逢うべくして出逢う為の道筋が酷く辛く悲しいものだった所為で、初めて逢った時は敵同士で ――― ただ、憎しみに唆されるままに傷付けあった。
 大マフィアの次期ボス候補だからという理由で、観た目にも幼い少年を一方的に付け狙い、目的の為に彼の友人らまで襲い、根深い溝を作ってしまった。
 戦いの果て、少年に打ち負かされた骸は、裏社会でも触れられない特殊な組織の掟により囚われの身となり、身体の自由と特殊な能力を奪われ、暗い闇の底にある水牢へ投獄されてしまった。
 脱獄不可能と言われる牢獄の、最深部へ。
 唯一の救いは、囚われて尚、特殊な能力を使いこなせた事だった。
 不幸な人生と引き換えに得た能力のお陰で、実体であると同等の生活が出来ていたし、自由に外に出る事が出来た。
 また、時折、気になる彼の様子を窺う事も出来ていたし、陰ながら支える事も出来ていたのだ。

 中学時代、若き日の主によって心の澱みを洗い流され、胸に炎を灯された。
 どす黒い炎を浄化された時、悪い気は、何故かしなかった。
 彼の必死の訴えにより、自分にも仲間達にも情状酌量の余地を与えられてからは、骸は裏社会に対しても些か寛容になった。
 薄汚い世界に、こんな人間もいるのかと、妙に感心してしまった。
 その数年後、マフィアの一員となった少年達とは正面切っていがみ合う事もそうそう無くなったけれども、胸の奥に燻ぶるものの正体に、骸は何時までも気付けないままでいた。
 主となった「彼」と接する度、嬉しいような悲しいような、苛立たしいような愛しいような、複雑な気分に襲われた。
 それまで無敗を誇っていた自分を負かした唯一の相手だからかと考えてもみたが、それだけではないような気もしていた。
 不可解な感情を持て余した骸は、敵意などとうに消え失せていたというのに、マフィアの間で小さな紛争が起こる度、敢えて彼に敵対しては酷く傷付けて、何度も困らせ泣かせてしまった。
 もどかしい想いを抱えながら、胸が痛むのを感じながらも、その理由が解らなくて、ただただ彼を困らせたのだ。
 出来る事を全てしてみれば、自分と彼の感情を全て曝け出してぶつかってみれば、何か解るかもしれないと考えての事だった。
 今にして思えば、何とも幼稚な、気の引き方だった。


(本当に、愚かでした。……あの人に気に掛けて欲しくて、自分を観て欲しくて、自分の事だけ考えて欲しくて、躍起になっていたんですよね、僕は…)


 そんな事をしなくても「彼」は何時でも自分を想い、素で向き合ってくれていたのにと、骸は苦笑する。
「彼」は、守護者でありながら、常に主を付け狙い脅かす犯罪者であり、何時掌を返すか分からない危険分子を疎んだりした事はなかった。
 マフィアになる以前から、そして正式にマフィアの頂点に君臨してからも、「彼」は、仲間内からも「要注意人物」と警戒されていた骸を、何らかの形で処分するとは、一度たりとも口にしなかった。
 指輪を破棄すると決めた日まで、骸の指から守護者の証を奪う事もしなかった。
 それどころか彼は骸を誰よりも信頼し、必要とし、誰より傍に置いた。
 忙しい身の上で、時間を見つけては、復讐者の元へ彼の保釈を自ら嘆願しに出向いていた程だったのだ。
 復讐者の決定に楯突き、重罪人の肩を持つなど、下手をすれば彼自身の身も、ボンゴレという組織の立場も危うくなるというのに。
(骸が犯した罪を考えれば、当時の仲間を含め、係わったマフィア全員が死刑になって当然だった。主犯のみ無期限の投獄処分、などという判決は、マフィアの世界ではこれまでに無い事例だったのだ。これは復讐者にしてみればボンゴレに対する敬意の表れであり、最大限の譲歩と言えた)

 何時だったか、執務室で二人きりになった時、骸はどうして自分の為にそこまでするのかと問うた事があった。
 純粋に、偽善だと言い切れない彼の行動に疑問を感じていたからだ。
 少年時代の面影を残したままの主は、不意に真面目な顔をして、「どんな重罪人であるとしても、俺にとって、骸が大切な人だからだよ」と返した。
 思わぬ答えを聞き、問いかけた骸は、何も言えなくなった。
 彼も、それ以上は何も言わなかった。
 骸にそう話したのは勿論、霧の存在を良く思わない人間に対しても同様に、主はきっぱりと「骸は俺の自慢の守護者だ」と話していた。
 それが形だけではないと見せ付けるかのように、ボンゴレ10代目は、公私の場を問わず、霧の守護者を従えて歩いた。
 一部からやり過ぎでは、という声も上がったが、どの方面からの意義も彼は許さなかった。
 普段は頭を上げられない家庭教師にさえ、この件にだけは口を挟ませなかった。


 ある時、守護者の誰かと“自分”の話している主の姿を遠くから見かけたことがあった。
 やはり「どうしてそこまで骸を庇うのか」と、問われていたようだった。
 恐らくこうして日常的に尋ねられているのだろう思うと、申し訳ない気分になった。
 骸は主の答えが気になって、気配を殺したまま、ちらりと彼らの様子を伺った。
 すると、主は少し困ったようにはにかんで、しかし何処か誇らしげに、

「だって、本当に、大切な人なんだよ。皆の事が大切で、いつまでも元気で居て欲しいって思うのと同じ。俺は、守護者としても、一人の人間としても、骸にずっと一緒に居て欲しいんだ」