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迷う事は許さない

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――――――― ある日。
 まるで地球儀の表面を滑るかのように軽やかに世界を、否、地球上を飛び回っていた雲雀恭弥の元に、一通の書類が届けられた。
 その内容は、ボンゴレファミリーのトップであり、一応上司でもある沢田綱吉が、持ちかけられた会談の場にて対抗マフィア、ミルフィオーレファミリーのトップに銃殺され、後日、腹心数名の手で密葬されたというものだった。

 「…ふうん」

 雲雀は滞在中のホテルの一室にて、黒い革で誂えられた椅子に腰掛けたまま、詳細が書かれた薄っぺらい1枚の紙切れに、何の感慨も抱かぬまま目を通す。
 取り敢えずは書かれている内容を記憶する為、冷めた視線で無機質な文字の羅列を追いながら、雲雀は他方で器用に別の事を考え始めた。


 約10年、正確には9年と数ヶ月の間に、心身ともに脆弱であった少年、沢田綱吉は、
見違える程に強くなった。
 精神力と運動能力を高め、死ぬ気の炎の純度を高め、超直感を生かし、多くの窮地を脱してきた。
 少年だった十代目候補はやがて成人し、呪われし血統の導くままイタリアマフィア最高の組織を正式に継ぎ、名実共に裏社会のトップとなった。
 十代目を継いですぐの頃は流石に「日本人の若造が」と軽んじられ、それなりに伝統のある他マフィアから何かと反感を買っていたものだが、彼の努力と部下達の活躍もあり、着任から僅か四年という短期間で多くのマフィアから絶大な支持を得、称賛を受ける存在にもなった。
 先代のボスが認めただけの事はある、ボンゴレの十代目として、大マフィアのボスとし
て相応しい人間であると。
 だがそれも実際には、家庭教師であり、ボンゴレが誇る最強のヒットマンでもあるリボーンの采配と暗躍、彼が持つ能力、そして特殊弾があってこそ築けた名声だった。
 リボーンが撃つ特殊弾の効力が無い状態の綱吉は、昔と何も変わらない「ダメツナ」でしかなく、お世辞にも、マフィアに向いている、ましてやボスという役職を務められる人材だとは言えなかったのだ。
 そんな彼が今日までマフィアの頂点の座を守り続けていられたのは、偏にリボーンや守護者達、そして門外顧問達といった、有能な部下や仲間達の尽力があったからこそ。
 そもそも沢田綱吉という人間は人を殺めた事がなく、この世界においては本来であれば非難されこそすれ、手放しに称賛される対象には成り得なかった。
 勿論、裏社会で生きる事を決めた時、遅かれ早かれ一度はその罪を犯してしまうだろうと覚悟していた綱吉だったが、綱吉が持つ正義をどうにか貫かせるためにも、ボスの手だけは白いまま残さなければならないとして、周囲の人間がそれを許さなかったのだ。
 どうしても直接制裁を行わねばならない場合には、綱吉は特殊弾によって死ぬ気の炎を灯し、身体一つで、死なない程度の強さで相手を諌めていた。
 彼は決して銃を持たなかった。
 冷徹非情と言われた彼の家庭教師もそれだけは許可し、逆に綱吉の警護を強化していた。
 例え奇麗事だとしても、ボンゴレの表向きの体裁の為、彼の信念と身の潔白さは必要なのだと、リボーンは人に問われる度、そう答えていた。
 そのような、自身を取り巻く人間達の優しさと決意に勇気付けられながら、そして自分の変わりに(恐らく目の届かない所で)罪を重ねているのであろう仲間達に胸の内で詫びながらも、綱吉は自分の理想の組織運営に努めていた。
 マフィアの世界は何時の時代も、多くの人間の欲望と血と死の香りで彩られている。
 遥か昔から続く血塗られた歴史を終らせられるとは思わなかったし、一般社会では有り得ない非常識な日常や、不条理な掟の数々を、たった1つの組織だけで覆せるとも思っていなかった。
 けれども、綱吉をトップに立てたボンゴレファミリーは、出来る限り争わず、血を流さず、盗まず、殺さずという理念を掲げ、裏社会を立て直すべく、遠くイタリアの地で、あるいは日本で奮闘していたのだ。

 恐らく、今回も。

 彼は最後まで力による報復を望まなかったのだろう。
 多くの同胞を殺されても、傷付けられても、志半ばの理想を棄ててしまう事は出来ない、歩みを止めるわけには行かないと考えて。
 そんな彼を面と向かって「甘い」と言って斬り捨てられる人間はおらず、部下達はただ追従するしかなかったに違いない。
 平和主義の十代目ボスは僅かな望みを捨てず、会話による応対を続け、その内、何かしらボンゴレ側に有利な条件を提示した会談を持ちかけられた。
 彼は和平が叶うかもしれないと淡い期待を抱いて敵地に赴き ―――― 「殺さず」の誓いの所為で、彼は死ぬ気にもなれない非常時にも関わらず、丸腰のまま会談に臨んだに違いない ―――― そこで撃たれ、呆気なく死んだ。
 事の顛末はそんなところだろうか。

 この世界では弱い人間や頭の悪い人間、それ以上に優しい人間は生きて行けない。
 誰かを信用すれば必ず馬鹿を見るのがマフィアの世界なのだから。
 ボンゴレ十代目の死は、謂わば自業自得なのだ。
(恐らく、口には出さないものの、数多のマフィア達が考えている本音の大部分もこのようなものだろう)
 何よりそんな裏社会を、長年、最高の家庭教師の指示を仰いで何と生き抜いて来た程度の存在が、指導者抜きでやっていけるとは思えなかった。
 そう考えれば、家庭教師の行方、生死が共に不明となった1ヵ月後の現在に訪れた彼の死は妥当なものと言える。
 一月という時間が長いか短いかという部分は、大した問題ではない。
 裏社会で生きる人間にとって重要なのは「アルコバレーノの消失とボンゴレ十代目の死」、その2つの事実なのだから。


(しかし本当に、何処まで馬鹿なんだろうね、あの子は。…まあいい。どうせ、それもあの人の計画の一つだろうから。沢田が知っていたかのどうか迄は解らないけれど……いや、それは関係ないか。計画そのものを知らなくても、あの厄介な直感能力とやらが、この一大事に働かない訳が無いものね。もしリボーンに何も聞かされていなかったとしても、あの子には解っていたんだろう。リボーンが消えた理由も、この時代で闘おうにも全てが手遅れだという事も、自分の採った行動の結果も、これから何が起こるのかも。まあ、事の手始めとしてボンゴレのトップが殺された………死んだ、と周囲に思わせるにはまずまずの時期だし、この上なく適当なシチュエーションだ。彼らが企んだ内容に必要な出来事なら、慌てる事はないな。僕はただ様子を伺いながら情報を集めて ――――― …時が来るのを待つだけだ)


 雲雀は少し面白く無さそうに溜息を吐くと、その書類を灰皿の上で燃やして捨てる。
 そうして別室に控えていた部下に「ボンゴレとの同盟関係を破棄した所と敵に寝返った所、リストアップしておいて」と簡単に指示すると、何事も無かったかのように、先に取り掛かっていた仕事に戻ったのだった。
 




 その後。
 ボンゴレを取り巻く状況が悪化の一途を辿る中、初代の再来とまで言われた誉れ高い
ボンゴレ十代目を銃殺し、勢いに乗ったミルフィオーレファミリーは、寝返った古参のマフィアや新興勢力を次々と取り込みながら、ボンゴレに縁のある者を全員抹殺すべく動き始めた。
作品名:迷う事は許さない 作家名:東雲 尊