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迷う事は許さない

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 報告によれば、ボスを殺されても、10年後の山本と獄寺は酷く落ち着いていたらしい。
 彼らの関係と獄寺の性格を考えれば、これは何より信じ難い話だ。


(今更だけど。沢田の死も、計画の一つだったんだろうね。やっぱり、どう考えても守護者が居て敵を止められないっていう状況が有り得ないし、彼が無抵抗のまま殺されるなんて、普通じゃ考えられないものね。もし死んだのが本人だったとして、沢田綱吉が死んでしまっても、必ず生き返らせてあげられるだけの自信があったとか? 赤ん坊がこちらに来てすぐ山本武と連絡が取れたのも、……ジャンニーニだったっけ、彼と連絡が取れたのも、獄寺隼人が匣を手に入れられたのも、僕だけじゃなくて彼らにも何かしらの置き土産をしていったからとしか思えない。―――――― リボーンは何時も、沢田と、ボンゴレっていう組織を優先していたから、無いとは言い切れないな。あの人は山本の事も気に入っていたし……)


 雲雀は自身の思考に深く入り込みそうになっている事に気付いて軽く頭を振った。
 考えすぎはいけない。
 冷静さを失ってはいけない。
 恐らく結果は一つなのだから、とにかく今はリボーンを信じ、自分がすべき事を遂行するだけだ。

(ふふ。彼の計画の中には、僕のこんなくだらない嫉妬まで計算に入ってたのかな。帰って来た時に聞いてみようか)


 雲雀は未だ物音一つ立てない球体に目を遣った。
 未来に送り込まれてしまった、今此処に居る子供達さえ死ななければ、希望は残されている。
 だから何としても、子供達を育てなければならない。
 14歳の彼等を、短期間で24歳のレベルに引き上げなければならないのだ。


(沢田綱吉。悔しいけれど、君にしかリボーンは救えない。君じゃなきゃ、この時間軸の流れを変えられない。リボーンは君に期待しているんだ。君にしか出来ないと信じて消えたんだ。僕も君を信じるしかない。 ――――――― だから、早く、其処から出ておいで)


 自身の不運を嘆くより、運命を打ち破れる程に強くなれ。
 他人を守りたいのなら、守れるだけの力を身に付けろ。

 この世界の彼にはそれが出来ていたし、この世界の彼もかつて同じ経験をし、「自分」で選んだのだから。


(君達が事を成し遂げて過去に戻る時、完全に未来は変わる。今だって、進行形で過去も未来も変えられつつある。もしかしたら、「今」の結果として作られる新しい未来は、僕とリボーンの間に恋愛感情なんか生まれていない世界になってしまっているかもしれない。それならそれで構わない。彼が居なくなってしまう事に比べれば、そんな事位はなんでもない)


 雲雀は何気なく最後に観た10年後の綱吉とリボーンの姿を思い浮かべた。
 約一ヶ月前には確かに存在した騒がしかった日常が、何年も昔の事のように思える。
 回想の中に在る彼らは、常に二人で一人だった。
 あの二人は恐らく、死ぬ時も一緒だろう。
 リボーンが愛しているのは自分だろうけれども、リボーンが死ぬ時、彼の傍に居るのは沢田綱吉に違いない。そんな妙な確信があった。
 雲雀は、恋人という立場も遠く及ばない彼ら師弟の絆の深さを思い、軽く唇を噛む。
 

(リボーン。貴方が生きてくれるなら、他には何も望まない。貴方の為なら僕は沢田にだって手を差し伸べる。貴方の替わりにこの子を強くしてあげる。だから、必ず、この世界に、戻ってきてよね。例え貴方が死ぬ事になっても、最期に逢えないのだけは嫌だ。僕は貴方の為に、ここに残っているんだから。違う時間の何処かで、僕に逢わずに勝手に死ぬ事は許さない。もし「この時代の」沢田と一緒に居るというなら、なおさらだ。例え未来が変わらなくても、この世界に……僕の所へ戻るのを迷うことは許さない。君達2人だけがこの世から逃げるなんて事、許さないよ。絶対に)


 雲雀は球体の傍で佇む赤ん坊の姿を一瞥してからそっと息を吐き、閉じ込められた少年が見事孵化する事を切実に祈った。


(……さあ、早く出ておいで。君は何としても生きなきゃならない)


 強くなって、君達が奪われた未来を、君達の手で取り返してみせて。


 そして ―――――――――― 




(この世界に……僕に、あの人を返して)


  


  


END

作品名:迷う事は許さない 作家名:東雲 尊