二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

HONEYsuckle

INDEX|1ページ/25ページ|

次のページ
 

家出1日目


 この世にはどんなに望んだって手に入らないものがある。子供は無力だ。俺はそれを幼い頃から数えきれないほど突き付けられ、諦めて、そして同時に努力すれば手に入るものをいくつも知った。そしてまた、手に入れることが可能でも諦めなければならないものが、この世には存在するのだとも気が付いた。
 俺は昔から、無い物ねだりで傷ついてばかりだ。

「泊めて欲しい」
 夜と夜中の微妙な狭間。鬼道有人はボストンバック一つを持って突然押し掛けてきた。普段の彼を見ていれば、そんな非常識なことを平気でするような男ではないことくらい良く分かる。何かあったのだということは、聞かなくても察しがついた。俯いたまま顔を上げられないくらいに気兼ねしながらも、こんなことを頼まなければならなかったような、彼にとって大きな理由があってのことだということは、嫌でも分かった。
「あ…ああ、いいぜ!」
 だから少年はあえて笑った。即答した。円堂守は、目の前で申し訳なさそうに首を垂れる男が少しでも安心するようにと、努めて明るく振る舞った。風呂を勧め、自ら男の分の布団を敷き、そして何も聞かず何も求めなかった。ただいつものように、何もなかったように、不自然なくらいに普通に接した。それが彼なりの精一杯の気遣いだった。
「なんか合宿みたいで良いな。鬼道とこんな風に枕並べるのなんてさ…まあ、つい最近までバスで皆一緒に寝てたけどさ」
 あえて言うなら、いつもより少し饒舌だったかもしれない。気まずい沈黙が生まれない程度には、ずっと話し通しだった。それは自分に歯止めをかけるためでもあった。何かあったのかと、聞きたくなる口を押さえる代わりに、笑ったり、喋ったりしていたかった。それに気付いているように見えるのに、鬼道は何も話さない。何も言わない。黙って時折思い出したように表情を浮かべ、最低限の相槌を打つだけ。
「…わるい、疲れてるよな。今日はもう寝よう」
「ああ」
「おやすみ、鬼道」
 胸に蟠りが広がるのを感じながらも、円堂はその日が早く終わることを静かに願って目を閉じた。日付が変わってしまう前に眠りに落ちたかった。明日になればきっと何かが変わってる。そんな漠然とした期待を淡く胸に抱いて、ごちゃごちゃと考えそうになるのを振り払い、布団を深くかぶって息を潜める。

作品名:HONEYsuckle 作家名:あつき