堕ちる
「ん・・・んん・・・・・・」
3時間ほど兄さんは眠っていた。
やっと目を覚ましたころには日も沈んでいた。
目を擦りベットの横の椅子に座っている俺に気づく。
「ヴェスト」
微笑みながら言う兄さんに俺は笑い返せなかった。
「ヴェ,スト?」
不安そうな声で尋ねてくる兄さん。
やっとの思いで口を開いた。
「兄さん,イヴァンに襲われていたとは本当か?」
嘘だ。貴方のような人に限ってそんな事。
しかし現実は真実しか映さない。
兄さんの顔が一気に青ざめる。
その瞬間全てを悟った。
汚れてしまった。純白だった兄さんはもういない。
天使は存在しない。
「ヴェスト!!」
兄さんも俺の表情から読み取ったらしい。
俺の腕をつかむ兄さんの細い指。
やけにそれに腹が立った。
「触らないでくれ!!」
冷たく引き離す。兄さんの瞳には絶望が広がっていた。
目を伏せうつむく兄さん。
兄さんの口から,淡々と言葉が放たれた。
「お前の考えている通りだ。俺はもうよごれている」
目を合わせようとしない俺の顔を見て,兄さんはまたうつむく。
「お前が俺のことを天使と崇めているのも知ってたさ」
「なんで兄さんが!」
驚いた。何故兄さんが知っている。
「俺はお前の兄貴だからな。
俺は嬉しかった。お前が俺を尊敬してくれていることが。
まぁちょっとやり過ぎだったけどな」
困ったように笑う兄さん。
「だけど俺は思うようになった。
お前に触れたいと。
だけどお前が好きなのは天使のような俺だ。
苦しかったさ。自分の気持ちを殺すのが」
俺は,兄さんを苦しめていた。
天使というイメージを勝手に植え付け
がんじがらめにしていたことに,まったく気付かなかった。
「俺はもうお前が思っているような天使じゃない。
汚れて地上に堕とされた天使だ。
いや,もう天使と呼べないな。
でもな,これでやっとお前に触れられる」
兄さんの指が俺の顔をなぞる。
兄さんは最初から天使なんかじゃなかった。
ギルベルト・バイルシュミット。人間だった。
「兄さん」
あふれる涙は止まらずに頬を伝う。
俺は強く兄さんを抱きしめた。
皮肉な話だ。俺たちを引き裂いた奴のおかげで
結ばれるとは。
「ヴェスト・・・・・・」
扇情的な目で俺を見る兄さん。
俺は欲望のまま兄さんを押し倒した。
近親相姦は道徳的にこ宗教的にも反する行為だ。
しかしそんなことは関係ない。
どうせ堕ちているのだ。
堕ち続けてもいいだろう。
二人なら・・・・・・