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【腐向け】週末コンビで学パロ【土日】

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特別棟の2階の奥の突き当たりに位置するその一角は、カフェテラスと名前は付いていても自動販売機が数種類並ぶだけで、いつの時間も人気があまりないいわゆる穴場である。
ガラスの壁に備え付けられたカウンター型のテーブルに白い書類を散らばせたまま、手の中の書類の文字列を目で追う。三枚目までめくった後に、手元のホチキスで綴じると本田菊はようやく顔を上げた。
目の前に広がるグラウンドでは彼のクラスメイト達がサッカーに興じている。
ガラス張りのテラスからはグラウンドが広く見渡せる割りに、ガラスはミラーコーティングされているのでグラウンドから本田の姿は見えない筈である。
「なんでぃ、本田は参加しねぇのか?」
「ええ、今日はあまり気乗りしないので遠慮させてもらいました…」
背中から不意に掛けられた問いに半ば反射的に答えながら、はっと振り返るとよれよれの白衣姿が見える。
「ほお、そいつは聞き捨てならねぇな。ありゃあ必修科目だろうが」
グラウンドを髭の生えた顎でしゃくって苦笑いをすると、本田菊の担当教諭は彼の隣に陣取るべくカウンターに湯気が昇る紙コップを置く。
「大丈夫ですよ、ちゃんと計算してますから」
「そりゃあ結構」
まぁ、お前さんのことだから心配はしてねぇけどよ…という言葉は白衣の中のワイシャツの胸ポケットを弄ったおかげであさっての方向に聞こえた。
そんな担任の様子を見ながら「ああ…この人が来る気配にも気づく余裕もなくなっていたのか」と本田は微妙な気持ちになる。
この教師のトレードマークと言えば、「突っかけ」あるいは「便所サンダル」と呼ばれる履物とおおよそアイロンなど別次元のよれよれの白衣。
そしてこのサンダルのソールが木製のせいでこの担任が歩いているとカランカランとおおざっぱな音が響く。おかげでどこにいてもこの足音でその存在が分かるのだ。
そんな音にも気づかずに書類に追われていた自分に反省をしていると、シュボっという音が耳に入る。
どうやら担任が隣でタバコに火をつけたらしい。
本田の鼻腔にタバコのにおいとコーヒーの匂いが届く頃には、担任は咥えタバコで次から次へとスティックシュガーの口を切って紙コップの中にさらさらと流し入れる作業を始めていた。
相変わらずだなぁ…という視線を本田が送ると、担任は「普通だろうが」と声を出して答える。
「はぁ…」
本田はため息混じりに声を出すと手元の書類に視線を落とす。
シュガーを入れ終わった教師は胸ポケットから今度は携帯灰皿を取り出して、蓋をあけるとその縁にタンと音を立ててタバコを軽く叩いて灰を落とす。それから、甘ったるくなったコーヒーをすすった。
本来の喫煙所は屋外にしかないため、この不良教師は時折こうして堂々と規則を破って、この場所で一服をする。
まぁ目撃者といえば彼と同じ目的の共犯者か、もしくは授業をサボった生徒かと言ったところなのでお互いに目を瞑るということになっているらしい。
教師は横目に本田の手元の書類を盗み見て、ため息交じりにタバコの煙を吐く。
その内容は教師の予想通りグラウンドの授業はおろか、この学園内の全てのカリキュラムと無縁のもののようだった。

―――世界の最果て、と言ったら少し仰々しいが、恐らくこの場所を示すには他に言葉が見つからないだろう。
都心部から電車で何時間も揺られ、さらに最寄りの駅からバスに数時間揺られ、さらにそこから数十分歩く、そんな場所にこの【W学園本校】はあった。
W学園は幼稚舎から大学部までの一貫教育をモットーとした私立の学校である。
雑誌等のメディアにも時折取り上げられる有名校ではあるが、取り上げられているのは本校ではなく都心にある分校の方で、本校のことはあまり良く知られていない。
【W学園本校】は中等部から高等部までの全寮制の学校であり、世間とは隔絶された雰囲気があった。
それは校舎全体が針葉樹の森林に囲まれていることという立地条件の他に、この学園に通う生徒たちが一般の生徒たちと少し毛色が違うところにも理由があるだろう。
いわゆるお坊ちゃんお嬢さまと呼ばれる上流階級のものが分校に通うならば、この本校の生徒たちはそれよりももっと上流階級のものか、もしくは訳ありの生徒たちであった。
本田菊の担任教諭、サディク・アドナンは自身の担当生徒が訳ありの側であることを重々理解して彼のことを「物好き」と評している。
本田菊は既に学園を卒業してもおかしくない年齢で途中入学してきた変わり者であった。
全寮制の学園に通いながらもその傍らで本職の仕事をしているという、出来るだけ楽をして生きたいと常々考えている不良教師にはまったく理解の範疇を超えている生徒である。

学園の休日を利用して集中的に仕事をこなしているらしい生徒は、休日中に終わらせられなかった仕事を学校にまで持ち込むことが時折あり、今日もそのパターンらしい。
書類の傍らにおいてある飲み物が緑茶党の本田には珍しくコーヒーであることと、目の下の隈にため息をついて「おいおい」と切り出す。
「無理してんじゃねぇだろうな」
「してませんよ」
書類に視線を落としたまま流れるように口から出る答えに、教師が「アテになんねぇなぁ」呟くと同時に、グラウンドからワアッと歓声が届いた。
二人がグラウンドを見ると、どうやら一人の生徒がゴールを決めたところらしい。
「なんでぃ、ありゃバイルシュミットじゃねぇか。あいつ今年も卒業しねぇつもりかい?」
クラスはおろか学年すら違う生徒がいつのまにやら乱入してゴールを決めたらしいと状況を判断してそう口に出すと、本田が隣で「師匠らしいですねぇ」とぼんやりと呟いた。
「ああ、でも…師匠はこの時間は授業が入ってないはずですから授業をサボっているわけではないんでしょうけど」
「相変わらず詳しいな」
サディク・アドナンがそう答えると「師匠ですから」と本田はさらりと答えた。
「そうかい。そうかい」と軽く答えてもう1本とタバコに火をつける教師の横で、生徒はまた書類に視線を落とし、今度は赤いボールペンでメモを書き込み始めた。
二、三箇所にメモを書き足したところで、さらさらと音がするのに気づいた本田がその方向を見ると自分の飲み物にシュガーが注がれている場面が目に入る。
「ちょっと、何してるんですか!」
反射的にそう言うと、にいっと教師は笑って答える。
「疲れてるときは甘いものって相場は決まってんでぃ」
「そうですけど… 私、別に疲れてなんかいませんから……ってまだ入れるんですか!?」
本田が口を開いている間にもスティックシュガーの封は破られて2本目のシュガーが投入される。
「どっからどうみても疲れたツラして、何言ってんでぃ」
三本目が投入される前に紙コップを取り返した本田は「本当に大丈夫ですから」と呟く。
「冷めたところに砂糖を入れたって溶けないじゃないですか、全くもう」
「だったら、ほれ…」とおもむろに教師は自分の紙コップからまだ湯気の立つ液体を本田の手にある紙コップへと注いだ。
「なんてことするんですか!」
「これで少しは溶けるってもんだろ」
笑う教師に本田は「全くもう…」ともう一度呟いて、ぬるく中和されたコーヒーを口に含んだ。
「ものすごく…甘いんですけど」
「普通だってぇの」