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oh! pretty boy.

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 けたたましく喚くアラームを、ごしゃっ、とやってしまってからようやく静雄は覚醒した。
 しだいにはっきりしてくる頭でベッドの上に飛び散ったあれこれを正しく認識して、すでに何代目に突入したのか覚えていない目覚ましが残念ながらご臨終であることを理解する。それでも、諦めきれずにプラスチックの破片やら、ネジやら、何処のどんな部品かもよくわからない残骸やらをとりあえずかきあつめて、手近にあった空箱に入れた。自分でも無駄な行為だとわかっているのだけれども、すぐにゴミ箱に捨てるのは、もったいないし、申し訳ない。
 ごめんな、とちいさくはなを啜りながら静雄は目覚まし時計に詫びた。
 泣きたい気分でベッドに腰掛けると、自然に溜息がこぼれる。夢ごときでここまで動揺できる自分はもしかして世界一のばかかもしれない。そんな思いが胸をよぎる。
 頭を壁に打ちつけたいような、拳を床に叩きつけたいような衝動にかられたものの、もし静雄が持てる力を額もしくは拳に一点集中させて、壁もしくは床を攻撃したとすると、隣の部屋と下の階の部屋と静雄の部屋がかなりワイルドな状態でドッキングする可能性を否定できなかったので思いとどまった。だってそんな共同生活、嫌すぎる。
 壁は無くても生活できるが、床が無けりゃできねぇよな、と無茶なことを考えながら床を見回して、ふと静雄は、昨日寝る前にサイドテーブルの上に置いた携帯のイルミネーションが、慌しく点滅していることに気づいた。
 ベッドの足の方から無理やり腕を伸ばして携帯を掴むと、待ち受け画面に大きくおどる現在時刻をみて、次の瞬間この世の終わりがきたような悲鳴をあげて静雄はベッドから飛び起きる。
 携帯が親切に表示してくれている現在時刻は、どう頑張って見ても一時間目の始まる時間ちょっと前だった。静雄の頭の中で、架空のチャイムが高らかに音をたてる。まだ若干寝ぼけ気味の頭でも理解できる、それは、確実に1限終了のお知らせだった。
 大急ぎで顔を洗い、着替えを30秒ですませ、食パン二枚を焼かずに四口で頬張り、パックのままで牛乳を一気飲みして部屋を飛びだして、戸締りもそこそこに階段を駆け下りる。
 自転車置き場まで全速力で走りながら、静雄は自分がこの世でもっとも嫌悪し憎悪し忌み嫌っている天敵を、ひたすら、一心に、力の限り罵りつづけた。そして自転車でこぎだすと、そうやって罵りながらもまだ今朝の夢に動揺しつづけている自分に対しての怒りが込み上げてきて、凄まじい速度で風をきりつつ静雄はあのころしてもころしたりないような天敵をどのようにして轢いてやるかについて、シミュレーションを繰り広げた。
 あいつはこの時間ならまだ登校中のはず、轢いてやる、後ろから轢いてやる、撥ねてやる轢いてやるあのムカつく顔を車輪の形にへこませてやるころすころすころすころすころすころすころすころすころす。
 まるで人生の最期に見る走馬灯のような景色も、静雄には関係ない。だから、通り過ぎた景色の向こうでブレーキブレーキと叫ぶ声も、青い顔で止まれとジェスチャーするのも、全く何も見えやしなかった。もっとも見えていたところで止まれていたかどうかは怪しいのだが。
 前だけを睨みつける静雄の視界に黒いちいさな点が現れ、そうと気づく前にそれがあっというまにおおきくなって、そして憎い天敵になってこう言ったところまで静雄は覚えている。
「おはよう静ちゃん。前見て!」
 いつものうんざりするくらいに楽しそうな笑顔を轢いてやるこのやろう覚悟しろと思いながら、何故かハンドルを捻じ曲げる勢いで右に切った自分の腕を呪う暇もなく、静雄は50メートルほどの距離を横倒しになった自転車ごととてもアグレッシブに滑走して、最終的に電信柱に激突してとまった。幸い化け物じみた自分の体は、こまかい擦り傷以外には骨折の一つもしてはいなかったけれども、残念ながらごく一般的な家庭用自転車だった愛車は、もはや原型をとどめていなかった。
 無残な姿を晒す元自転車と、遠くで高らかに爆笑している天敵を見て、アスファルトに転がった静雄はよわよわしく呟く。こんなときまで夢がちらついてもうどうしようも、ない。
「てめ・・・ちくしょ、う・・・ノミ蟲野郎・・・しねよ・・」
 ぶちまけられた鞄の中身をどうしようかと見つめて、いたたまれない気持ちで呟いた言葉はあまりにもちいさくて、慌てて駆けてきた友人たちと、すでに何だかひきつけをおこしそうなほど笑いつづける天敵には届かない。静雄は怪我をしていない自分はむしろ不幸なんじゃないかと思い始め、断りもなく夢の中まで入り込んでは自分を引っ掻き回していく天敵から、そっと目をそらす。
 今夜こそあのドアを叩き破ってやる、と心に誓って。







(だから・・かわいすぎんだよ、てめぇ・・・・っ)
作品名:oh! pretty boy. 作家名:藤枝 鉄