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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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邂逅ー胚胎




トランと英雄と呼ばれた少年はカリスマ的存在だった。

彼を知る者は誰もが崇め、賛美する。解放戦争当時も、彼が行い、言った事すべてに皆が傾倒された。誰もが彼についていくことに疑問を抱くことなどありえなかった。誰もが信者のように彼を信じ、彼の元で戦う事を誓ったものだった。

それほどまでに彼のカリスマ性は確かなものであった。

彼を本当によく知る者もそのカリスマ性や彼自身について疑いなど何一つ持つ事はなかった。ただ実際の彼がとても悪戯好きであり、茶目っ気があるという事と、怒らせるとそれはそれは生きた心地がしないという事実も知っていた。

そしてトランの英雄は英雄の名に相応しく、不可能とも思われた帝国軍を確実に打ち破り、赤月帝国を滅ぼした。
誰もが歓喜し騒ぎ立てた。そんな中、かの英雄は国を共和国にして大統領を立てること、それは今後選挙で決めること、ただ初代大統領はレパントが行うようにとの内容を記載した文面を残し、誰にも告げることなく消えてしまった。
いつも後をついて面倒をみることが生きがいだったグレミオという下男の姿も見えなくなったことから、彼は英雄と共に旅に出たと思われた。

そうして3年の月日がたった。

その間英雄の消息はずっと不明のままであった。
ある日、当時の仲間何人かと、ある少年が出会うまでは。

その日、ヒナタは特にすることもなく(いや、事務処理は溜まっていたはずであるが)、ぶらりと出かけることにした。

彼はこの都市同盟で戦っていた。
それもリーダーとして。

ヒナタ自身、まさか自分が大勢の人の上に立つことになるとは思いも寄らなかった。
それがあれよあれよという間に盟主となり、軍を率いて戦うことになっていた。

初めの頃はこの小さな女の子のような子供を、ただのお飾りだと思う者も多くいた。
都市同盟の元英雄ゲンカクの義理でも息子であるということと当時ゲンカクが宿していたといわれている輝く盾の紋章を宿しているというだけの、名目上のリーダーだと。

ヒナタもそう陰で言われているのは知っていた。そしてそれに対しては何も反論はしなかった。ただひたすら軍を率い、率先して戦った。日々軍師とともに皆を守っていた。
そうして彼の実力や人となりを目の当たりにした人々は、恐るべき敵、狂皇ルカを倒した頃には誰一人お飾りだと思うことはなくなっていた。

「ねえルック。暇なんだよ。どっかいかない?」

ヒナタは彼と、ともに戦っている人々が住まう城のホールにある石板の主を訪ねた。

「暇?さっきシュウが君を必死になって探していたけど?」

ルックと呼ばれた魔法使い少年は冷ややかに切り替えした。

「あは。それはそれ。んーじゃあ、この間行ったバナーって村。あそこってほんと鄙びてるよねー。ああそういえばあそこにいたコウって男の子がなんかどうも勘違いしてるっぽかった。僕が僕のコスプレしてるって思ってんだよ。うん、コウくんに会いに行こう。」
「何勝手に話進めてんのさ?ていうか勝手にいけば?何で僕が仕事でもないのにそんなとこに付き合わなきゃいけないのさ?」
「あーそういえばナナミがレストランの厨房で何かしてたな。」
「行くよ。」
「そうこなくっちゃ。やっぱ寂しいとこだし賑やかなほうがいいよね?あとはーうん、いいところに。熊に青いの、行くよ。」

心なしか青く必死なルックにニッコリと笑いかけたヒナタは周りを見渡し、こんな朝から飲みに行こうとしていたのか、通りかかったビクトールとフリックを呼び止めた。2人はその呼び方止めろとか言いながらも快く同行することにしたようだ。
こんな俺様な子供に、甘いよね、何やかんや言っても、とルックは内心思った。
ただそういうルック自身も毒をはきながらも結局のところこの子供には逆らえないようではあった。

4人はビッキーに送ってもらいバナーに着いた。
ぶらぶら歩いているとヒナタの服に似た格好の小さな子供が話しかけてきた。

「あ、この間のお兄ちゃん。」
「やあ。コウくん。元気だった?」
「うんっ。あ、ねえねえ。お兄ちゃんもヒナタ様のファンなんでしょ?あのね、実はね、今ヒナタ様がね、いるんだよ、ここにっ。」

コウはとても嬉しそうにそう言った。ヒナタも二コリと笑って言った。

「へえ、そうなんだ。」
「会ってみたいでしょ?」
「うん、そうだね。会ってみたいな。」
「あのね、僕の家、宿屋なんだけど、そこに泊まってるんだっ。絶対あの人がそうだよ。今の時間だったらね、あそこの道をね、ずっといった奥で釣りをしてると思うよ。あ、でも会おうとしても多分金髪のお兄ちゃんに止められちゃうと思うから、うーん、そうだ。いい事思いついたっ。僕があっちの山の入り口でその金髪のお兄ちゃんがその場から動くように上手く叫ぶよ。その間に会っちゃえば大丈夫だよ?」

コウはニコニコしながら言った。好奇心もあり、ヒナタ達はその微妙な案にのることにした。コウのいうとおり道を歩いていくと確かに金髪の青年が立っていた。

「あれ・・・?あいつって・・・。」

ビクトールがそう呟いたとき、向こうのほうからコウの大きな叫び声がした。

「助けてーさらわれちゃうよーっ。とくにそこの金髪のお兄ちゃーん、助けてー。」

あきらかに不審な叫び声にも関わらず、金髪の青年は慌てたようにヒナタ達には目もくれず走っていってしまった。

「えー、あれ、信じるんだー・・・。」

ヒナタは呟いた。

「ていうか今のって・・・。」

フリックも呟いた、がヒナタがさくさくと歩いていったため、3人も後につづく。奥には小さな池があり、確かに釣りをしている人がいた。

・・・緑と紫のバンダナを頭に巻いている。
傍らには武器であろう、棍が置いてある。
うーん、明らかに僕じゃないよね・・・?同じなのって服が赤いだけじゃないか。
コウくんは僕の格好を真似てるくせに僕をコスプレ仲間だと思って、この人を僕と思ってるんだ?ヒナタは首を傾げた。

ヒナタ達の気配がしたのだろう、声を掛けてもいなかったがその人物が振り返った。