ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~
珍重
あの日ヒナタは泣きはらしたような顔でふらりと出て行った時のように帰ってきた。
まだ城に残っていたルックはその時に違和感に気付いた。
・・・紋章が・・・。
その時どこにいたのか、ヒオウがヒナタに駆け寄った。
大丈夫ヒナタ?と気遣わしげに。
ヒナタは大丈夫、とヘラっとしたが、また俯く。
とりあえず今日はこのまま休みなよ、とヒオウが支えるようにヒナタをエレベータに案内していた。
そのヒオウがルックの視線に気付く。
じっと見ていると、ヒナタを案内しながらルックをちらっと見てからまたヒナタに向き直った。
その時の表情。
ああ、ルック、気付いたんだ?
そうして口元をかすかに上げる。
それだけなのにルックにはさっと寒気が走ったのだった。
一方ヒオウはヒナタの部屋まで付き添うと、そのまま椅子に座らせた。
そしてあまり慣れた手つきとはいえないがお茶を淹れ、ヒナタに手渡した。
ヒナタはボンヤリしたままお茶を受け取る。
そして間をおいてから一口、二口と口にした。
「・・・ほんとは僕も一緒に近くまでついていってあげるべきだったんだろうけど・・・。」
「・・・ううん・・・。ここで待っていてくれて、良かったよ・・・。あの場所には僕一人で行きたかったし、帰りは一人で気持ちの整理しながら帰ってこれたから。」
「・・・うん・・・。」
「・・・ジョウイは・・・静かに逝きました・・・。亡骸は・・・とりあえずそこに埋めてきました・・・。今度、キャロの・・・じいちゃんの横に、ナナミとともに埋めなおしてあげたいと・・・。」
そこでまたコクッとお茶を飲み、一息いれてから続けた。
「とりあえず今まで色々とありがとう・・・。・・・僕は明日にでもシュウにこの地に国を打ち立てる事を承諾しに行こうと思ってる。・・・あの・・・これからも手を貸してくれる・・・?会いに行ったり会いに来たりしてくれる・・・?」
ヒオウはお茶を持っているヒナタの手を包み込んだ。
「勿論。だって共に行こうって約束したでしょ?これからも・・・それは変わらないよ?」
これから・・・永久にね・・・?
そっと思ってからヒオウはにっこりと笑った。
「・・・共に・・・。うん、一緒に。」
そっと呟いたあと、ヒナタもにっこりとして頷いたのだった。
結局その日はヒナタはゆっくり休んで、翌日には元気な姿でシュウとすべての市長に集まってもらい、宣言した。
ここに、デュナン国を打ち立てる、と。
そして大喝采の後、ヒナタがいなかったからと行われていなかった終戦祝いと就任前祝いを兼ねた祝賀会がとりおこなわれる事となった。
「いやー、しかしあのヒナタが王様かー。すげえよな。」
ビクトールが、がははと酒を飲みながら言った。
フリックも横でそうだな、としみじみ頷いている。
そのヒナタは色々な仲間と次々に話している。
「どうしたのかな?ルック。何か言いたげだよね?」
さすがのルックもこの祝賀会には渋々だろうが出席していた。
そして時折ヒナタを見ていた。
そんなルックにヒオウが声を掛ける。
「・・・別に・・・。・・・いや・・・、・・・紋章・・・。」
「ああ、始まりの紋章ね。それがどうしたの?」
「・・・1つになったんだね。・・・これはすべてあんたの筋書き通りってとこ?」
「やだなあルックってば人聞きの悪い。ヒナタがすべて自分で選んだ結果じゃない。」
「・・・そうなるように仕向けたとしか・・・。・・・まあ僕には関係のないことだけど・・・。」
「ああ、そうだね、そうしておいたほうがいいよ。ルック。そのほうが、いい。」
口元をくっと上にあげ、ヒオウはルックを見据えて言った。
ルックは目を逸らし、ため息をつく。
「ルーック。あ、ヒオウもー。どしたのー?楽しんでる?」
ヒナタがニコニコと駆け寄ってきた。
「ヒナタ。うん、勿論。ねえ、ルック。」
にっこりとヒオウが言う。
ルックは呆れたような目を見せた。
「・・・。・・・ヒナタ。僕は明日魔術師の島へ帰るよ。」
「え、もう!?なんだよ、もっとゆっくりしていったらいーのにー。ねえ、ヒオウ。」
「そうだよねえ。ルックどうせかえっても小間使いするだけなんでしょ?」
「うるさいな。ああ、そうだよ。どうせ家政夫だよ。・・・だいぶ空けたからね・・・。多分あの塔は凄まじい事に・・・」
ルックは少し遠い目をした。
ヒオウとヒナタは思った。
レックナートってそこまで!?
「うーん、なんか引き止めるに止めれない。仕方ないかー。たまには遊びに来いよな、僕も行くかもだけど。」
「君はそんな事してる場合じゃなくなるだろ。」
「えー。いくら建国っつってもそればっかじゃ疲れるだろ。」
そうやって喋っていると、他の皆も寄ってきた。
そうしてバカ騒ぎをする。
ここにいるほとんどの仲間は暫くしたら去っていくんだなーとヒナタはふと思った。
なんだか淋しくなりそうだな。
でも、仕方ないか・・・。
どのみちいずれはここにいるほぼ全員が僕をおいて逝ってしまうのだから。
ヒオウを除いてほぼ・・・。
・・・ヒオウ、僕の唯一の人。
もはや唯一の身内のような、なくてはならない人。
・・・ヒオウもそんな事を前の戦いの祝賀会の時に思っただろうかなと考えた。
あの時は僕という存在もなかったしシエラ様もいなかった。
ルックはいただろうけど・・・僕みたいに胸がヒューヒューとしなかっただろうかとヒナタは思った。
そんなヒナタを見ながらヒオウはクッと笑う。
きっと子供っぽい事を考えているんだろうなあと思う。
皆がいなくなる事で先の事を思い、そしてきっと僕までもが前の戦いの時に寂しい気持ちになったのではないか、といったところかな。
まあいずれ知った人間が誰もいなくなるのではと思うと寂しくないと言ったら嘘だが、別にそれだって本当はどうでもよかった。
次々にまた知り合いを作ればいいんだし、人との繋がりをもつというのも正直可もなく不可もなくといったところ?
僕にとってはどうでもいい事。
もちろん人生楽しいほうがいいに越した事はないんだからその時その時適当にするけどね。
ヒナタ、君を除いてはね。
僕の唯一の興味。
こだわり。
唯一なくしたくないと思った必需品。
君だけは手放さない。
君だけはどうでも良いとは思わない。
僕にとってなくてはならないモノだから。
僕のモノは僕だけのモノ。
だれかと共有するのはまっぴら。
だけどまあ、先は長いんだしヒナタが作りたいというなら国くらい作ればいい。
十数年くらいかな。
それくらいでもヒナタなしで成り立たない国なら滅びればいいだけの話だ・・・。
作品名:ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~ 作家名:かなみ