ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~
慟哭
ルックは続けた。
「断言は確かに出来ない。だが僕には君のソウルイーターがヒナタに命を注いだように感じられ、またヒナタにも感じられたんじゃないかと思うんだ。その後もヒナタが倒れる度君は看病していたけど、その後ヒナタはとりあえず一旦は元気になっていた。」
「・・・ま、さか・・・。まさかこの紋章、が・・・?」
ヒオウは自分の右手を見つめた。
世間では呪いの紋章、死神、などと言われている紋章。
ほんとに?
確かに初めてヒナタに会った時、この紋章は取り込みたい、ではなく、側にありたい、と願っているように感じられた。
ヒナタと出会えて、ヒオウだけではなく、紋章も歓喜しているように感じられた。
でも、ほんとに?
ああ、そうだとすれば、どれ程嬉しい事だろう。
ヒナタの命を奪うところか命を与えられるなら、それはどれ程嬉しい事だろう。
ソウルイーターよ・・・教えてほしい。
そうだとすればどんなに幸せな事だろう・・・。
だが紋章が何か言う訳ではなく、横たわるヒナタも微動だにしない。
「・・・ヒオウ、とりあえず移動しよう・・・。ここももうすぐ崩れる。」
ルックに言われてヒオウは黙ってヒナタを抱いた。
ルックはセラを抱える。
勿論もう既にこの世を去ってしまってはいるが、ここでセラ一人潰され埋まってしまうなんてルックには耐えられなかった。
気がつけば神殿から少し離れた平原にいた。
ルックがどうやら転移魔法を使ったのだろうとヒオウはルックを見た。
ルックは青い顔色をしてセラを抱いたまま少しうずくまるように座っていた。
「・・・ルック?お前、大丈夫か・・・?」
「・・・ああ。魔法を使うのは少し無茶だったようだけど・・・、僕は大丈夫。それよりヒナタは・・・?」
「・・・まだ目覚めない。」
「・・・そう・・・。・・・ヒオウ、紋章をヒナタにかざしてみてくれないか。ヒナタが目覚めるよう祈りながら・・・。」
藁をもすがる気持ちのヒオウは何も言わず、言われた通りにしてみた。
ヒナタ・・・。
頼む、起きてくれ。
・・・このまま目覚めないなんて嫌だ。
ソウルイーター、お前が本当にヒナタを守ってくれるというならどうか力を、ヒナタを助けてくれっ・・・・・。
ドクンッ・・・
暫くすると驚いた事にヒナタが少しピクリとした。
ヒオウが祈るように凝視していると、今度は瞼がピクッと動き、ゆっくりと開きだした。
「・・・ヒ・・・ナタ・・・?ッヒナタッ!?」
「・・・ん・・・、ヒ、オウ・・・?」
ヒナタの意識が戻ったと分かると、ヒオウは腕に抱いていたヒナタをギュッと抱きしめた。
「っああ・・・ヒナタ・・・ヒナタ・・・、良かった・・・ヒナタッ・・・」
「・・・ヒオウ・・・?ど、うしたの・・・?ちょっと、苦しいって・・・?」
今まで自分に意識がなかったと分かっていないのか、ヒナタは唖然としていた。
「ヒナタ・・・目覚めてくれて・・・良かっ・・・ヒ・・・ナ、タァ・・・」
「どう、したの・・・?ヒオウ?泣、いてる、の・・・?」
するとルックがヒナタに言った。
「・・・君は今まで意識がなく、死んだように倒れたままだったんだ。」
「ルック!!ああ、良かった、無事だったんだね・・・?・・・え、僕、意識、なかったんだ?・・・ごめんねヒオウ、心配かけて。ごめん。」
自分の状態を知り、ヒナタはギュッとヒオウを抱き返した。
ヒオウが泣いている。
あのヒオウが。
僕の為に・・・?
・・・ヒオウのモノがなくなっちゃうって心配した・・・?
ごめんね・・・?
「・・・ごめんね・・・。泣かないで、ヒオウ・・・。・・・僕はここに、あるから・・・。」
無くなってないよ・・・ちゃんとあるよ・・・、ヒオウ・・・。
落ち着いてからルックはセラをきちんと埋めた。
セラ・・・ごめんね・・・ありがとう・・・、そう呟きながら。
そして何とか魔力も回復してきてから、ルックはヒオウ、ヒナタとともに魔術師の島に転移した。
とりあえずレックナートと話をしに行くとルックは2人を残して消えた。
「ヒナタ、体の具合は大丈夫?」
部屋の一室のソファに座ってからヒオウが聞いてきた。
「うん、全然大丈夫だよ。・・・ありがとう、またヒオウが助けてくれたんだね。」
「・・・また・・・?」
「・・・うん。その紋章で・・・。」
ヒナタは微笑みながらヒオウの右手を指した。
「昔から・・・ずっとソウルイーターは僕を救ってくれているんだよ・・・。え?もしかしてヒオウ気付いていなかったの?」
ヒオウはポカンと口を開けたままだった。
「ずっとヒオウと共に僕を見守っていてくれていたよ?今回はさ、僕の紋章と一緒になって、間に合うって教えてくれていたんだ。だから僕は無我夢中で・・・。ごめん、あんなに力使うとは思わなくってさ。ヒオウも訳わかんないまま力使って苦しかったんじゃない?」
「え?あ、ああそれはいいんだ。・・・ヒナタ、紋章と会話出来るの?」
「会話って訳じゃないんだけど・・・今回みたく、何かあった時に僕の心に直接感情みたいなのが流れてくる感じ、かなあ・・・。始まりの紋章になってからさ、何となくこの紋章や他の紋章とそういうやり取りが出来るようになったみたい。いつもって訳じゃないんだよ?僕や僕に関わりのある何かに関して大事だと思われるような時に、ね。だからヒオウの紋章も一緒になって教えてくれていたんだ。」
始まりの紋章はすべての紋章の始まりでもあるからだろうか・・・?
ヒナタやその紋章にそういう力があるとは知らなかった。
それに、ソウルイーターにヒナタを守る意思があるとは・・・。
そういえばこの紋章、ヒナタに初めて会った時、よほど嬉しかったのか僕にまで感情が伝わってきたようだった。
では・・・では僕はもうヒナタを失う心配をしなくてもいいのか・・・?
ヒナタを失う事を恐れて大切なヒナタをモノ扱いしなくてもいいのか・・・?
ヒオウは両手で俯いた顔を支えた。
今になって体に震えがきた。
「ヒオウ・・・?大丈夫・・・?もしかしてヒオウのほうが体、きつかったんじゃないの?」
ヒナタは慌ててヒオウのそばにきてそっとヒオウの肩を持った。
ヒオウは深呼吸をした。
気持ちを整える。
そして確認とばかりに呟いた。
「・・・ヒナタ・・・?僕のこの紋章は君を守る意思が、あるんだね・・・?」
「え?ああ、うん。ソウルイーターは僕と始まりの紋章を守ってくれるよ。」
ふいにヒオウが顔をあげた。
ニッコリと微笑んで。
「そう。それは良かった。・・・ねえヒナタ?良ければ僕ときちんと付き合ってもらえないですか?」
作品名:ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~ 作家名:かなみ