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a holiday

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 秋晴れのさわやかな風を埃り臭い部屋の中に招き入れる為に大分湿り気を帯びた窓枠を蝶番のご機嫌を伺いながら開く。
 そんなに動かしてなかったかな、と思うほどに赤錆の粉がはらはらと出窓の縁に落ちる。
 前髪をひとなでする風はもう冬の気配がした。


 こんな陽の高いうちに家に居るのは珍しい。
 何を隠そう、今日は非番なのだ。
 一年のうちに非番を満喫できる日が幾日も無い身としては、この好機に何をしよう。
 独り身としては寂しいかな掃除洗濯から始めるのがセオリーか。
 誰かを雇えば済むことだが出来るだけテリトリーに他人は入れたくは無い。
 かといって誰かしら適任が居るにはいるがいろいろ誤解を受けそうな人物では困ることだし。

 ここは一つ。

 なぜかしらタイミングを計ったようなホットラインがかかって来ないうちにこの家を出るのが得策だろうか。
 ・・・ならば、善は急げ。

 寝巻き代わりのカッターシャツを手早く脱いでランドリーBOXに押し込むとクローゼットをあけてざっと見、薄手のカットソーに着替える。
 ズボンはラフすぎないコットンパンツ。

 頭は多少寝癖が付いてるものの水でぬらせば問題ない。

 適当なジャケットを羽織っていざ外の世界へ踏み出そうとした瞬間、来客を告げるベルが鳴る。




 「・・・・このタイミングの悪さは、あれか、いつものひよこ頭か。」
 こうなったら共犯者に無理やり仕立てて逃亡用の運転手としてこき使ってやろうか。
 こめかみに青筋を立てながらドアを開けるとそこには予想外の人物が立っていた。
 「鋼の・・。」
 「よぉ、・・・なに。もしかして出かけるとこだった?」
 「ああ、まぁそんなようなものだ。」
 「なんだよ歯切れの悪い。デートってやつ?やっぱ先に連絡しときゃよかったか。」


 自宅の前で逢う人物の範疇に無いこの子供。


 「何か急用かね?生憎と今日は非番なので頼みごとは明日以降にしてくれたまえ。」
 自宅に居るということもあってか、普段の事務的な言葉よりはやわらかめに話したつもりだったか何故だか目の前の子供は急に不機嫌になった。
 「・・・・別に。じゃぁ休みを邪魔して悪かったよ。」
 くるり、とトレードマークの金色の尻尾を揺らしてきびすを返す。
 「待ちなさい、来訪の目的ぐらい話して行ったらどうだ。」
 「別になんでもねぇよ。たまたま近くを通って、あんたの家がこの辺だって聞いてたから冷やかしに来ただけ。」
 「・・・・君の人となりを十二分に知っている身としては、その言葉を額面どおりに受け取るわけには行かない。」
 こういうときは妙なカンが働く。
 それでなくとも状況的に日常でありえる範疇の出来事ではなかった。
 賢者の石を探すために当て所ない過酷な旅を続ける彼らにたまたまということは無いだろう。


 そもそもいけ好かない大人の代表格を自負している男の家に来るということ事態おかしな話で。
 こちらとしては友好的にしているつもりだがそう受け取ってはもらえていないようだし。

 「自分の胸に手を当てて考えてみろよ。」
 「まったくわからん。」
 「考える素振りもしないうちから放棄かよ!」
 「労力の無駄なことはしないんだ。」
 ペテン師の言い様に脱力したらしくさっきまでぴん、と貼っていた尻尾が垂れ下がっている。


 「ったく、自分で言ったことの責任くらい持てよな。」
 「・・・・はて?」
 「アンタ俺の見たがってた文献の著者の自伝的な本を持ってて、関係ないかもしれないけど一度見に来てもいいとか言ってただろ。」
 「そういえば、そんな事言ったかな。」
 「言った!」
 何の気も成しにふと会話の途中で頭を掠めた程度の言葉をよくも覚えていたものだ。
 確約をした訳でもない。
 普段アレだけコケおろしている人物の家にたったそれだけのことでのこのこやってきたのか。
 別にどうしてもその本が必要というわけでもないはずで。
 それとも藁をも掴むつもりできたのか。
 だとしたら弟がいないのはおかしい。
 


 「君、アルフォンス君はどうしたのかね。」
 「アイツと俺は一緒くたにじゃねぇぞ。」
 確かに兄弟というだけで別行動もするのだろうが。
 「文献を見るにも手分けしたほうが効率がいいだろうに。」
 「いいんだ、ただの気分転換だから。」
 気分転換にわざわざ嫌いな大人の家に来る?
 自分の経験上では理解できない行動だった。


 「で?今日は出かけるんだったら出直すよ。今度何時暇?」
 約束をしたわけでもないのに責められているような気がするのは気のせいか。
 「あ、ああ・・・別に何処という目的はなかったんだ。せっかく来たんだから見ていくといい。」
 その言葉にさっきまでの不機嫌さは何処へ。
 「あ、そう?わり〜ね。」
 「ただし。条件がある。」
 「はぁ?」
 驚かされたお返しに少しぐらい意地悪をしてもいいだろう。
 「君もただで文献を見させてもらうには心苦しかろう。変わりに家の掃除をしてくれないか。」
 「はぁあああああ!?なんで俺があんたんち綺麗にしなきゃいけないんだよ。」
 ごもっとも。
 しかしむくむくとわきあがってきた悪戯心はかくも制御しがたし。
 「君も錬金術師なら、等価交換の原則を忘れることは出来まい?」
 「・・・・・・・クソオヤジ。」
 「いま何か聞こえたな?いいんだよせっかく君が嫌な大人の家に嫌々来てでも見たくなるような貴重な文献が見れないだけだし。私は貴重な非番を満喫しにこのまま出かけても。」



 交渉成立。



 「いやぁ、いいねぇ〜休日に響く家庭的な音。」
 優雅に紅茶をたしなみつつ、横で子供は雑巾がけ。
 童話の中のある話のワンシーンのようだった。
 「ぜってー後でボコる。ぶん殴る。半殺し。」
 「物騒な呪文は程ほどにして次はシャワールームのカビとりでも。それが終わったら洗濯物を干してくれたまえ。」
 「・・・・闇討ち決定。」
 「夕飯作りも追加して欲しいかい?」
 「いい天気だ!洗濯日和!!」
 どたどたと元気に裏庭へ駆けていく後姿に苦笑する。
 

 それにしても。
 本当にどういうつもりでここへ来たのだろう。
 真意はいくら推測してみても解らない。

 「大佐〜〜〜〜!終わったぜ。」
 「ご苦労様。ココアを入れておいたから一休みしなさい。」
 「何、まだなんかやらせようって?」
 「・・・・純粋な好意だよ君。」
 「んっじゃ、いただきまーす。」
 ひねくれてるかと思えば妙に素直で。
  


 成功報酬を得て、おもちゃを与えられた子供というより突然研究者の顔になる。
 不思議な子供だ。
 自分が軍に引き入れたのは確かだが、正直その子供とここまで関わりを持つことになるとは思わなかった。
 手ごまの一つだと思ってもいたし、過ちを再び起こさないよう見張っているつもりでもいた。
 後見人と上官という立場以外でこうして過ごすことになるとは。
 さして貴重でもない文献をただ貸し出してやるだけでよかった。
 そしてそのまま出かけていれば。
 それをそうしなかったのは一体何故か。


 思考はそこで一旦中させられた。
 またもや来客のベルが鳴る。
作品名:a holiday 作家名:藤重