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 エドは中身を最後まで飲み干して、勢いよくグラスを置いた。 
 意地や恥ずかしさで拒んでしまったけど、その実はとても逢いたかったのだ。
 街で彼を見かけて、いつも自分に見せる姿とのギャップに戸惑って素直になれなかった。
 傍にいるのに、触れられない。 
 「拷問だよ、君が目の前にいて触れられないなんて。」
 エドの気持ちを代弁するようなことをさらりと言う。


 そんなとこが嫌なんだ。
 なんでそうやって臆面もなくいえるんだ。
 「私は嫌われたのかな?」
 そんな事・・・最初からアンタのことなんて大っ嫌いだ。
 そうだ、嫌いなはずなのに。
 嫌いなはずなんだ。
 なのになんでこんなに嫌な気分になるんだろう。


 「すまないね、私は愛し方というものを知らないんだ。」
 何故、とか嘘だろう?とか詭弁に決まってるとかいろいろ言葉は浮かんできてるのにエドは声に出せなかった。
 「今までそれなりの女性とも付き合ってきたけれど、最後は愛されてないといわれて振られるんだよ。君もそう思うかい?」
 大佐に背を向けたまま、エドは無言だった。
 

 愛されてないとは、思わない。
 むしろ愛し方を知らないのは俺の方だ。
 こうやって拗ねてれば大佐が優しくしてくれるのを解っててやってる自分が嫌だ。
 きっとそのうち愛想付かされるに決まってる。
 わがままいって困らせて何処まで許してくれるか試してるんだ。
 いつから俺はこんなずるい奴になったんだろう。


 「君がつらいのなら、もうやめにしようか。」
 その言葉はエドの心を裂く。
 「ああ・・・」
 とうとう来たか。
 こんなガキで子供を相手にしてたって仕方がないよな。
 エドはそう頭では理解してても感情は付いていけなかった。
 「何故泣くんだ?」
 言われて頬が濡れてるのに気が付いた。
 「まだ私は望みがあるのか?」
 その台詞こそエドの言いたいことだった。
 「普段の君じゃなくなるほどにはまだ心を預けてくれてると思っても?」
 ソファーにうずくまるエドと視線が合うように大佐は床にひざを付いて囁いた。
 「大佐の傍にいると俺じゃなくなる。」
 「そうか。」
 「そんなのは嫌なのに。」
 「なのに?」
 先の言葉を促すように極力トーンを抑えて。
 「大嫌い。・・・と同じだけ・・・。」



 最後まで聞き取れはしなかったがいいたいことは解った。
 「それは光栄だ。」
 相反する感情両方共に君の心が向けられてるってことだろう?
 君がまるごと全部。
 濡れた頬を指先で拭って、大佐は漸くエドを抱きしめた。
 




 「何をやってるの?」
 執務室の前でたたずむハボックをいぶかしんでホークアイ中尉が声をかけた。
 「いや・・急ぎの書類があってですね。でも、俺の勘がいまここで入っちゃダメだといってるんです。」
 「・・・・・・たまには賢いのね?」
 「中尉・・今日はなんだかいつも以上にキツくないっすか?」
 「そうかしら、いつもどおりよ?」


 さわやかな風が、少し湿り気を帯びるころの話。


 


    
作品名:side of dislike 作家名:藤重