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暗夜と波紋

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 頭の隅で思いついた仮定は、なぞる様に言葉を口にする事で確信へと変化しようとしていた。浮ついていた足元が地面を求めるように、積年の敵に止めを刺すように、頭の中で浮かんだ確信を口にしようとする。しかし波江の求めた着地点へ、足が届く事はなかった。届かなかった。爪先は地面を蹴る事などなく、静止を余儀なくされたのだ。
 二つの硝子玉が波江を見つめていた。思わず目を奪われる。薄暗いと感じていた部屋は照明を落とした訳でもないのに暗い。部屋は今や夜と同化し、果てしない暗闇を作り上げていた。折原の眼だけが一筋の光を放ち、波江を捕らえている。肌が粟立ち危険を察知するほど、緊迫した空気がそこにあった。差し向けられた意識の切っ先に塗りたくられたのは、殺意という毒である。
 折原が何か口にすることはない、ただただ容赦のない殺意をこちらへと向け続けている。触れられたくない所に触れてしまったのだ、そう悟った。しかし尻尾を巻いて逃げるのは御免だった、だからこそ立ち向かおうと折原の目を見つめるも――――それは長く続かなかった。折原の向ける淀みない意志に、一瞬怯んだ。目を反らしてしまった。その時点で勝負はついていた。
 からん、と音がした。折原がカップをソーサーの上に戻す音。無機質なその音はさながら波江の負けを知らせるゴングのよう。やけに耳障りな音だった。
 ごちそうさま、気だるく口にする折原に夥しい殺気はなかった。一瞬のうちに一変した空気、まるで別人のようだった。だが波江は忘れない、先刻の折原の双眸を。夜ですらも味方につけて、ただならぬ殺意をこちらへ向けたあの双眸の事を。波江もまた、折原の言うように波紋を描き、折原の手の中に落ちた人間なのだ。やるせない気持ちが全身を苛んでいく。同時に普通の人間なら怯むどす黒い殺意―――それに対峙出来るのはたった一人、平和島静雄だけと思い知る。折原の手の中に落ちる事なく予想外の出来事を繰り返すトリックスターは、高みの見物を許さない。
「あいつと…一生殺し合っていればいいのよ」
 波江は小さく呟く。その言葉が折原の耳に届く事はない。高層マンションの一室をまた無音が支配する。部屋はいつものように静かに、一定の薄暗さを保ちながら、新宿の夜の中で浮遊している。
作品名:暗夜と波紋 作家名:nana