小さな頃に
タイミングを図ったかのように玄関の開く音がして、慌てて散らかした部屋を片付けた。キスの教科書にした漫画は逆さまに本棚に戻された。二袋開けたおやつを隠すのは間に合わず、帰ってっきた母親に「いっきに食べちゃダメって言ったでしょ!」と叱られた。日比野は何事もなかったかのように言い返している。今もドキドキしているのは駆一人みたいだ。
いつも通り、いつも通りにと念じながらおばさんに「お邪魔しました」と「さようなら」を言って日比野の家を出た。背後で玄関の扉が閉まったのを合図に駆け出した。
ドキドキしていてもおかしくないくらい、全力疾走。