美味礼賛
「ったくナミの奴、参るぜ。まあ、お前も知らなかったみたいだしな……どうしてもってんなら、別の奴を探すさ」
「いや、それは……」
いくら聞いていなかったからと言って、それも悪い気がする。サンジは文筆業がどんなものなのかはさっぱりわからないが、締め切りとか、そういうものがあるのではないか。そしてそれを破ると、えらいことになるのでは……。
「……なあ、なんで」
「何が」
「家庭料理って、よう。他にもあるだろ。作家先生なら、高いメシだって」
「それをお前が言うのか」
また、さっきのにやりとした笑いだ。むっとするが、サンジ自身そう思うのだから反論のしようもない。
「食事ってのは……生活だろ。ならば、根の降りた食こそが、その本質だとは思わねえか。俺は、お前の作ったメシを生活にしたい」
「おまっ」
(……そりゃ、まるでプロポーズじゃねえか!)
自分自身の発想に怖気がさしたが、けれどサンジはどこか腹の奥底で、確かな説得力と希望を感じているのだった。
「で、どうだ」
にやりと、ゾロの歪んだ口の端がサンジの視界を覆う。
「……勘違いするなよ! お前が、味をしめてまた猫の餌を奪わねえとも限らないからな。俺は、猫好きなんだ!」
「決まりだな」
改めて、と呟いて、ゾロが再び右手を差し出した。少々躊躇いはしたが、今度はサンジもしっかりとそれを握り返す。
不敵に笑う瞳と、警戒と不安とに揺れる瞳。両者が交差するのをじっと見上げて、白猫がふわァと大きな欠伸をした。