オレンジの日々
すると男の声に答える様に、穏やかだった風が急に激しく吹き荒れた。びゅうびゅうと辺りの木々を揺らしているそれは、怒っている様にも、男を宥めている様にも、単純に喜んでいる様にも見えた。舞い上がる砂煙に前が見えなくなっても、修兵はその場所から動かずにただ前を見つめていた。暫くして、「ありがとな」と言う男の声が聞こえた。それははっきりと修兵に向けられた声だったと、修兵自身も理解できたが、その意味は全く理解できなかった。
風が止むと、既にその男の姿も無くなっていた。
マフラーも、僅かな彼のぬくもりすら、全て跡形もなく消え去った。
ただあの頃と変わらない風景が、強烈なオレンジの空と共に其処に在るだけだった。