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習作

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そんな心中の疑問の声が聞こえたのだろうか、義王は牙の如き八重歯を剥き出すようにしてにぃと笑う。
あ、いつもの義王だ、と声には出さずに呟いてしまうくらい、其処には平然と構える年下の男がいた。
「俺の目、気持ち悪くないのか?」
「別に。確かにちょいと驚きはしたけどよォ・・・・綺麗じゃねぇか」
そんな色の眼、初めて見たぜ、と。
そうあっけらかんと言い放って悪辣に笑う義王の表情に、千馗は空いた口が塞がらない。
誰もが、――千馗の親でさえもが、秘法眼を薄気味悪いと言った。だからこそ千馗は、いち早く秘法眼を抑える事を学んだのだ。
それなのに、――それなのに。
義王は千馗の異形の瞳を目の当たりにしても、全く動じることがない。全く予想していなかった返答に千馗は呆然としていたが、ひたりと両手で頬を包まれる感触に漸く我に返った。
「あー・・・・流石に俺が盗賊王でも、その目玉ァ盗む訳にはいかねぇしなァ」
「・・・・おまえな、俺の目を抉るつもりか?」
両目を覗き込みながら義王が言い放った言葉に、千馗はやれやれと小さくかぶりを振る。今は極々普通の茶色の瞳であるとは言え、よくも恐れ気もなく触れられるものだ、と思わずにはいられない。からかいの色を含んだ物騒な言葉が本心では無い事など百も承知で、千馗は頬に添えられた義王の手を振り払おうとした、けれど。
「ちょっ・・・・おま、何・・・・っ!?」
ぐいと顔を引き寄せられて悲鳴を上げた左の目元に、温く柔らかいものが、触れる。一瞬それが何であるのかわからずに眼を白黒させた千馗だったが、すぐに何をされたのかを理解した。
べろり、と。
舐められたのだ。
左の目尻を、――義王の舌に。
気付いた瞬間、秘法眼とは別の意味で視界がブレて歪み、かあっと全身が熱くなったのは錯覚か、否か。
「なっ・・・・な、ななななな」
「ま、今日はいいモン見れたからこの程度にしといてやるよ。本当はもっと色々してぇとこなんだけどなァ・・・・」
「何をだ!?」
真っ赤になって怒鳴り返す千馗の言葉にいらえはなく、代わりにちゅうと音を立てて目元を吸われる。妙に温かく柔らかい唇の感触にぞわりと背筋が粟立つ感覚を覚え、千馗は声にならない悲鳴を上げた。
羞恥と焦燥と訳のわからない衝動が千馗の頭蓋の内を瞬時に満たし、ぐちゃぐちゃになった頭の中では何も考える事が出来ず、叫びたいのに声が出ない。何をされたのだろうと疑問には思うものの思考を巡らせる余裕もなく、ぱくぱくと開閉を繰り返す唇は虚しく吐息を零すばかりで、罵りの言葉ひとつ吐き出す事が出来ない有様に尚一層混乱するばかりだ。
だがしかし。
「次はこんなモンじゃ済まさね、・・・・ぶへぇっ!?」
――声は出ずとも足は出る。
真っ赤になって絶句した千馗の頬を押さえたまま高笑いを零しかけた義王の腹を、半ば無意識に千馗は蹴り飛ばしていた。それも、全力で(単に加減する余裕が無かったとも言う)。
全くの無防備だったところに腹を蹴り上げられた義王は勢い良く後ろに引っ繰り返り、ガツンと鈍い音が一発。恐らくは床の上にあった何か――多分、澁川が送ってくれた『特別報酬』の何かだろう――に後頭部をぶつけた、らしい。頭を抱えて悶絶する様子から察するに、余程当たり所が良かったのだろう。
「~~~~ッてぇなこの野郎!! 何しやがる!?」
「それはこっちの台詞だ莫迦野郎! 何考えてんだ、頭腐ってるだろおまえ!」
床に引っ繰り返ったまま喚き散らす義王の言葉に、負けじと千馗も怒鳴り返す。今度は驚くほどスムーズに声が出た。
――散々真剣に考え込んで悩んだ挙句、義王の言葉に少しばかり嬉しいと思ってしまった自分が莫迦だった。
そう、――嬉しかったのだ。
忌避されるばかりだった秘法眼を、義王は綺麗だと言ってくれた。その言葉が泣き出しそうなほど嬉しかったと言うのに、――何もかもが台無しだ。
「・・・・満更でもなさそうな顔したくせに・・・・」
「死ね!」
ぼそりと義王が呟いた言葉が終わるより早く、千馗は身を起こした彼の顔面に平手打ちを食らわせた。




その後。
取っ組み合いの喧嘩に発展した二人は、清司郎の一喝と拳骨を喰らった挙句、正座で延々と説教を聴かされる羽目になったことは言うまでもない。




尚、澁川から送られてきた荷物の正体は、神楽面だった。
うっかり寝る直前に箱の中身を見てしまった千馗は、その晩般若の面に清司郎の声でねちねちと説教される夢を見、翌日は目の下にクマを作って登校し、顔を合わせた燈治に激しく心配されることとなる。

作品名:習作 作家名:柘榴