意味のない話
(どうしてかしら、愛したはずなのに、おかしいわ、人間なのに、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてねぇどうしてなの)
「園原さんはもう大丈夫?」
「あ、はい、私はもう・・・。でもあの、竜ヶ峰さんは・・・本当に」
杏里は帝人の問いだけに答え、保健室で手当てを終えた帝人の手を、いたわるように優しく撫でた。
それに帝人はいつものふにゃりとした笑みを浮かべて答える。
「大丈夫だよ、そんなに傷深くなかったみたいだし」
「でも、」
(どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてねぇどうしてなの、なんだったかしら名前名前、そう竜ヶ峰、帝人、帝人帝人)
(呼ばないで)
(あらずいぶんね杏里)
「園原さんが心配なら、あとでちゃんと病院も行くから」
なんとか場を和ませようとしているのか、帝人はまぁこんな小さい傷じゃ追い返されそうだけど、とまた笑った。
「・・・ごめんなさい」
(罪歌が、ちがう私のせいで・・・傷つけたくなかったのに)
(違うわ、私も杏里も悪いことしてないわただ愛そうと愛そうとしていただけだもの)
(黙って)
(・・・)
「園原さんは悪くないよ?本当どこで切っちゃったんだろう、手のひらなんて」
不思議そうに自分の手のひらを見つめる帝人に、杏里は何も言えなかった。
また明日。その言葉に明日があると安心している杏里がいることを帝人はきっと知らない。
家に帰り着いた杏里はブレザーを脱いだだけで制服のままベッドに倒れこみ突っ伏した。
思わず吐きだした息はどんな感情を孕んでいただろうか。
俄然饒舌になった罪歌がきゃっきゃと話しかけてくる。できれば遠慮したいガールズトークだ。
(ねぇわかってる?わかってるわよね杏里、ねぇ杏里あなたさっき私に彼女をとられると思った瞬間自分で)
(うるさい)
(ああこわい・・・女の嫉妬は、醜いわぁ)
(・・・自分も女のくせに)
(・・・まぁそういうものよね、女なんて)
(・・・)
たとえば、私が思い悩むのを疎んじて額縁の外に避難していたなら。
私と罪歌が彼女を×すことなんてなかったかもしれない。
たとえば、たとえばたとえばたとえば。
なんて、全部全部、意味のない話。