りりなの midnight Circus
二人は暫く雑談を交わしつつ道を行き、訓練所本部施設へと足を運ぶ。その道の途中、迷彩柄の軍服に身をつつむ一人の男とすれ違い、二人は敬礼を交わした。
そして、その彼が曲がり角の向こうに消えたところで、なのはは、あれっと思って振り向いた。
「どうした? なのは」
いきなり立ち止まったなのはにヴィータは少し小首をかしげる。
「今の人、ここでは見ないね。新しい人かな」
一等空尉でありながら現場の教導官を努めるなのはは、ここにいる人間の殆どの顔を覚えていた。しかし、先程すれ違った男はなのはには見覚えのない顔だったらしい。
誰だろうと考えても彼ほどの若い男の顔など、新入の訓練生以外に思い当たるところはなく、あの様子は任官間もないという雰囲気を醸し出していなかった。
少なくとも彼女の記憶の中には一度も出現したことのない人間であることは間違いなかった。なのはは無意識に自らのデバイス、【レイジング・ハート】に手を伸ばし、【レイジング・ハート】は自主的にデータを検索した。
該当者無し。それはつまり、彼女が彼と出会ったことは一度もないと言うことは証明されたことだった。
ただすれ違っただけに過ぎない一人の兵士。しかし、彼女の胸には何故かそれだけではないという予感がしていた。
なのはは、怪訝そうな表情で自分を見るヴィータにぎこちない笑みを浮かべ、その建物に入った。
***
「エルンスト・カーネル一等陸士。入ります」
教導隊所属の陸士訓練所の一角。書斎と応接間の両方を合わせたかのような広い部屋にエルンストは足を運んだ。快晴の朝であるにもかかわらず、そのカーテンは閉め切られ、照明も少し薄暗く落とされている。
「任務ご苦労、カーネル一等陸士。無事に帰還出来たようで何よりだ」
その応接間の奥、広い木の机に腰を下ろす一人の男がそんな彼を出迎えた。
「無事ではありません、ベルディナ・アーク・ブルーネス一等陸佐。ニコルが死にました」
「らしいな」
ベルディナはそういうと、ゆっくりと椅子から腰を上げた。
「だが、お前等はターゲットを見事仕留め、航空魔導師4人を落とした。悪くない功績だ」
そして、ニコルという優秀な観測士が犠牲になった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪