りりなの midnight Circus
ベルディナはエルンストから背を向け、小さく溜息をついた。ニコル・エルトニル一等陸士の殉職は既に彼の三尉特進という処理が行われ、訓練中の事故による殉死という事で書類ができあがっていた。
自分たちの仕事はけっして表に出されることなく、任務による死亡は訓練中の事故死と言うことで全ての決着がつく。特例でその書類に目を通すことが出来たエルンストは、わかりきっていたことを改めて知らされ少し気分を害した。
その死が自分たちのミスによるものであるなら、それは納得できるし、相棒が死んだ事にも意味があるとエルンストは思ったが、今回は本来ならあり得ない戦闘によって引き起こされたものであるためエルンストは承伏しかねていた。
(あれは情報部のミスだ)
任務を終え、命からがら帰還したエルンストはそう考えるようになった。情報部が提供したデータによると、あのときあの場所にはターゲット以外にはSP程度の戦力しか存在しないはずだった。
ターゲットの身辺警護を執り行うSPは、はっきり言って彼らにとっては戦力外に過ぎない。それらSPが組織を組んでその身辺を警護したところで、それをカバーできる範囲はせいぜい半径1000m程度のことだ。彼らはその三倍、3000m近い距離から狙撃を行い、完璧に任務を果たした。
しかし、その後出現した航空魔導師の編隊は、まるであのときあの場所でターゲットが狙撃されることを見越して展開していたようにしか思えない。
エルンストはあの連中の平均ランクはおよそAランクだと考えていた。おそらくその目算は間違ってはいないだろう。そして、彼らが行った戦闘は明らかに対狙撃手のために専門訓練を受けたものの動きだった。
(そうなければ)
とエルンストは思う。
(俺たちのペアが、たかだか航空魔導師4人にやられるはずがない)
あの後、ここに出頭する直前にエルンストは情報部に情報漏洩の可能性があると報告書を提出したが、その返答はまだ届いていない。
もしも、それが真実なら、ロストロギア事件の重要参考人であるリカルド・マックフォートを邪魔に思う人物が、それを排除した記憶を持つもの諸共に闇に葬り去ろうとしたということか。
そして、エルンストが現在最も怪しいと考えている人物が彼の目の前にいる時空管理局教導隊長、ベルディナ・アーク・ブルーネス一等陸佐だった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪