りりなの midnight Circus
このまま加速を続ければ、連中の700手前で離脱することができる。しかし、連中が全力を持ってこちらに向かってくるのであれば、多少の被弾は覚悟しなければならない。
しかし、彼らはおおよそカーティスの思惑通り、本体はその場に停滞し、その両翼を60ずつの光点が自分たちを包み込むように展開し始める。
それはまるで、宙を飛ぶ羽虫を捕まえる虫取り編みのように感じられ、|大空の乙女(テンオ・ローウィス)もなめられたものだと、カーティスは不敵な笑みを浮かべた。
エンゲージまで残り約5000。カーティスは通信回線を開き、ベルディナへ、
「離脱まで残り10秒強。耐衝撃、耐閃光防御」
そういうと、二人の席の上から、遮光グラスがつり下がってきた。
エルンストはそれをかけると、その視界の一切が遮断され全く世界が黒に閉ざされてしまう。
「残り、5秒。シートに捕まっておいてください」
「お前の方は大丈夫か?」
ベルディナの危惧にカーティスは全く平然とした声で、
「全く問題ありません。すべて完璧です」
おそらく、彼は今笑っているのだろう。まるで、公園や丘山を駆けめぐる子供のように、彼は狂喜きわいているのだろう。
エルンストはそれをどこか心強く思った。
「残り3秒、2秒、1秒……時空振動波展開(ストライク・ディメンション)。通常空間動力停止(アフターバーナー・オフ)。超弦励起縮退波動(ワグナー)航法準備」
テンオが、その身にキラキラと光る粒子をまといその航法の出力炎を閉ざした。
「……グッバイ! ワールド!!(あばよ、世界よ!!)」
閃光とともに、|大空の乙女(テンオ・ローウィス)はその世界から時空間の海へと飛び立っていった。
後に残されたのは、膨大なエネルギーの奔流に身をとられる要撃の鉄槌だけだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪