りりなの midnight Circus
「確かにその可能性は否定できない。しかし、俺が聞いたところによると、それが存在したとしても広い宇宙空間で他星系文明人同士が出会うほどの確率しかないと言われている。たとえ、それが本当でも信じられるものではないな」
「それが、存在するわけだ」
ベルディナは、エルンストの優等生的な物言いを否定するようにそう口にした。
「実際、俺やカーティスはそこ出身の人間と言うこととなる」
「あなたたちが?」
エルンストは怪訝な視線を二人に投げかけた。そんなことを言っても信じられるものではない。
「まあ、そのあたりのことはある意味どうでもいい話だ。ともかくいけばわかると言っておこう」
ベルディナはそういって、シートに背中を預け、たばこを片手に本を読み始めた。
今となっては珍しいどころか、文化財といっても過言ではないほど廃れてしまった紙媒体のすすけた書物をだ。
しかし、時空連合にミッド・クラスターか。もしもそれが本当ならば、これは大変なことだとエルンストは感じていた。つまり、地上に住まう人間が遙か星の彼方からやってきたという異星人を目の前にしてただうろたえることと同じだということだが、自分はそこまで感情が揺さぶられる様子はなかった。
感動が薄いからなのか、単に信じていないだけなのか。
少しだけ、彼はこれから向かう場所が楽しみになってきていた。
そして、しばらく休んでいたところ、コクピットから耳慣れないアラームが聞こえてきて、カーティスは急いでそこへ向かった。
「なんだ?」
ベルディナは、通信機ごしにその様子を確かめようとした。
「どうやら、出迎えのようです」
カーティスは、レーダー越しにテンオの目前に迫る巨大な質量対を確認した。
「どこのものだ」
「確認中です……、時空連合軍第七時空艦隊所属。これは、レアト基砲艦隊所属の新型巡洋艦〈アークソルジャー〉のようです」
「レアトの旗艦か」
「回線つながりました。こちらを誘導するとのことです。……お気遣いに感謝する、アークソルジャー。できれば、燃料の補給も行いたいのだが。接舷の許可はいただけるか。感謝する。直ちに接舷する」
カーティスは次第にあらわになっていくアークソルジャーの巨体に飲み込まれるようにテンオを導いた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪