りりなの midnight Circus
エルンストは、てっきり燃料補給は巡航補給(ランデブー)によるものだとばかり思っていたが、カーティスはそのままテンオをアークソルジャーの船体へと納め、自船のエンジンを停止させた。
「降りるぞ。艦長に挨拶しにいく」
ベルディナはそういってエルンストの膝を蹴ると、彼に降船の準備をさせた。
準備、といっても着の身着のままでデバイスすら持ち出す機会もなかった彼は、財布すら持っていなかった。
無賃乗船か。と己の状況を皮肉ると、せめて皺の入った服をのばして降船を決めた。
艦外の風景からも推察できたが、この艦はアースラやラーバナとは違う構想で作られた艦のようだった。
時空管理局の時空航行艦はどちらかというと単独任務を主観にした多用途(マルチロール)艦であり、管理局の船は基本的にそれを基準にして開発されている。
しかし、この艦。巡洋艦〈アークソルジャー〉はむしろ航行能力と打撃力を主観に入れられたもののように感じられる。おそらく、これらは大規模な艦隊を形成することでその用途が発揮され、単艦の能力よりもその艦隊運用方法に重きを置かれているようだ。
彼らの言う艦隊というものがどれほどの規模となるのかは正直見当が付かないが、この艦が本来所属している艦隊は、第七と言われていた。
ともすれば、軍の規模は時空管理局を遙かにしのぐのではないかとエルンストは感じた。
降船時に手渡された自動翻訳機は、多少の表現の差異に問題がありながらも、その周りにかかれている異文化の文字でさえ理解できるようになるという優れものだった。
エルンストはベルディナが立ち止まった部屋の上に『艦長室』とかかれていることが理解でき、少し驚いた。
「ベルディナ・アーク・ブルーネス以下、異世界の客人。入ります」
二、三回ドアをノックし、彼はその中へと足を入れた。
「ようこそ、ベルディナ・アーク・ブルーネス。客人もようこそ、アークソルジャーへ。あなたたちを歓迎します」
そこにたつ女性を見て、ベルディナは、「なるほどな」といって唇の端を持ち上げた。
「やっぱりお前だったか、本山美由紀戦佐。俺の協力者で、こんな馬鹿でかい艦を転がしてこれるのなど、よく考えればお前しかいなかったな」
ベルディナのその言葉に美由紀と呼ばれた時空連合の戦佐(二佐に相当)は破顔して、久しく出会う友人に笑顔を向けた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪