りりなの midnight Circus
「まあ、ともかく助かった。このことの礼は戦場(いくさば)で返す。必ずだ」
エルンストのその力強い言葉は、アリシアの耳にはどのように聞こえたのだろうか。
後のエリオン曰く、「夕日をバックにして孤立無援の戦いを繰り広げる自分のピンチに颯爽と現れて敵を一網打尽にするエルンストという、痛い風景」だったらしい。
アリシアはさらに顔を真っ赤にし、何を思ったのか全力で食堂を離脱していった。
「ほう、見事な離脱だ。あれが戦場でも見られればいいな」
そんなアリシアの脱兎ぶりをみて朱鷺守は邪悪な笑みを浮かべた。
「ねえ、エルンスト君?」
「何でしょう、高町一尉」
「これから訓練をしようって話になってたんだけど、アリシアを連れ戻してきてくれないかな」
「俺がですか?」
「そうよ、急ぎなさい」
なのはの有無を言わさない言葉に、エルンストはため息をつくと、双子のリーファの弟を一瞥しそのまま食堂を出た。
「若者はいいな。そう思わないか? 高町一尉」
朱鷺守はそんな彼を見送り、まるでオヤジのようなことを口にした。
「私はまだまだ若いつもりですけど? 朱鷺守一尉?」
らしくない挑戦的なまなざしを浮かべるなのはに、朱鷺守は「これは失礼」と言っておどけて見せた。
状況は最悪で、放置しておけば悪化の一歩をたどるばかりだ。しかし、彼らはその中にあっても不思議な希望を持っていた。それはおそらく何の根拠もない希望に違いないだろう。
だが、それがあらゆる状況を打破するための強力な原動力になることを知っていた。
しかし、レイリアは彼らとともに笑いあいながら一人陰鬱な感情をもてあましていた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪