りりなの midnight Circus
その場面はどこかのホテルのラウンジか高級レストランかと予想したが、それはさすがに想像力が豊かすぎるとエルンストはそこで思考を打ち切った。
ベルディナは一通りなのはと雑談を交わし、さてと、と呟いて懐から煙草を取り出し火をつけた。
一般的な官邸は全面禁煙が言われているが、彼はそんなブームなど気にすることなくそれを吹かす。
狙撃手の習性で身体に匂いがつくことを嫌うエルンストは不快に眉をひそめるがベルディナは全く意に介さず言葉を続けた。
そしてベルディナは五指をエルンストに向け、
「順番は逆になったが、紹介しよう。高町一尉。こちらはエルンスト・カーネル一等陸士だ。今回、君の教導補佐官として任命された」
なるほど、それが自分の次の任務か。とエルンストは思うと、改めてなのはに向き合い、背筋を伸ばして敬礼をした。
「お初にお目にかかります。高町一等空尉。自分はエルンスト・カーネル一等陸士であります。高名な一尉と共に出来ることを光栄に思います。」
それは一通りの儀礼のようなものだった。会った瞬間から気にくわないと感じていた手合いだったが、相手は上官で自分は下っ端である以上それを表に出すわけにはいかない。
なのははそんな彼に笑顔を向け、ゆったりとした仕草で敬礼を返した。
「初めまして、エルンスト一士。私は高町なのは一等空尉です。高名なんて言われると照れるけど、これから一緒にがんばりましょう。よろしくね」
やはり気に入らないと感じたエルンストは、なのはの差し出す手を無視し、ベルディナの方へと身体を向けた。
なのはは、少し残念そうな表情で上げてしまった手を胸の前で握ると、ちらっとベルディナを見た。
ベルディナは肩をすくめ、鼻を鳴らして立ち上がった。
「まあ、よろしくやってくれ。エルンスト一士の処遇は高町一尉に一任する。彼は優秀だから、便利に使ってやれ。以上だ、二名の退室を許可する」
ベルディナはそういうと話はこれで終わりだと言わんばかりに椅子に腰を下ろすと、そのままクルッと回転してカーテンの向こうに視線を向けた。
「では、失礼いたします」
二人の敬礼と共に発せられた声にもベルディナはだらしなく手を挙げて答え、二人は部屋を後にした。
扉が閉ざされ、二人の足音が遠くへと消えていくのを見計らってベルディナは一つだけ溜息をついた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪