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りりなの midnight Circus

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 そういえば、とエルンストは気がついた。彼は食堂の位置は知っていたが、それを利用するのは今回が初めてだった。
 食事を単なる栄養補給と考える彼にとって、それが美味いか不味いかなどどうでもいい事に違いない。
 道を行くなのはが時折振り向きながら、ここの食堂は他と違っていいコックが入っており、安い割にはとても美味いのだと、端から見ても一生懸命説明しているのに適当に頷きつつ、相づちを打ちつつその内容の僅かも記憶することは無かった。
 食堂に入った二人を出迎えたのは、なにやら頬を膨らませてふてくされたヴィータだった。
「なのは、遅ぇーよ。あたしを飢え死にさせる気か」
 その彼女もテーブルに突っ伏しながら、待ち人の隣に見慣れない男がついている事に気がついた。
 ヴィータは相手を萎縮させる程の睨みをきかせてエルンストに目を向けるが、エルンストは黙ってその場に立っているだけだった。
(なんだ? こいつ)
 ヴィータは得体の知れない相手を前にした犬のように、警戒心に髪を逆立てた。
(喧嘩っ早い子犬のような奴だ)
 エルンストはそう彼女を見下ろし、ただ黙ってじっとしていた。
「ええっと、その。ヴィータちゃん。こちら、エルンスト・カーネル一等陸士で、今回私の補佐をしてくれることになったの」
 ヴィータは、「補佐ぁ?」と声を漏らしたが、なのはは絶妙にそれを回避し、今度はエルンストに向かってヴィータを紹介した。
「エルンスト君。こっちは八神ヴィータ二等陸尉。ちっちゃいけど、立派な武装隊員なんだよ」
「ちっちゃいは余計だ!」
 と腕を振り回して抗議するヴィータを半ば無視してエルンストは、敬礼をし、
「よろしくお願いします。ヴィータ二等陸尉」
 と、上官に対する最低限の礼儀を表した。
「お、おう」
 さっきまで不躾な(とヴィータには見えた)態度を取っていた手合いがここに来ていきなり直立不動で敬礼を向けたため、ヴィータもそれを無視することは出来ず、「よろしくな」と言って敬礼を交わした。
 ひとまず騒動が収まった事に安堵したなのはは(と、言っても半分以上はなのはの責任でもあるが)、ホッと一息ついて食事にしようと二人を誘った。
 食券の前で何にしようかあれこれ相談するなのはとヴィータを尻目に、エルンストはとりあえず一番安い定食を選びカウンターに並んだ。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪