りりなの midnight Circus
「了解しばし待たれよ。確認した、それは敵の包囲網の一部であると推測できる、驚異度は低い。そのまま飛行しつつ周辺を警戒せよ」
D1とD2、つまりなのはとヴィータにはこの戦場の情報を自前で取得することが出来ない。それは、即ち殆ど目隠しで戦闘を行っていることと同等のことなのだが、彼女らの後方には何よりも信用のおける鷹の目があることに二人は安心して飛び続けられるのだ。
「D2よりD3へ。そっちに敵が行ったぞ、注意しろ」
D2の荒々しい声がエルンストの脳裏に響いた。念話は鼓膜を振動させる会話ではなく、あくまで魔術によって自らの意思を相手に届ける者であるため、端から見れば彼らは戦闘開始からなにも一切口を動かすことなく、ただ黙々と飛び回り敵を蹴散らしているように見えるだろう。
しかし、その声にならない声は状況が変化すると共に忙しく、激しく戦場を行き来する。
「了解したD2。確認した。D1からの援護を要請する。D1可能か?」
敵との交戦中でまったく身体に余裕のないD2では援護は無理だと考えたエルンストは、急遽D1へ返答を求めた。
「こちらD1、現在敵12体とエンゲージ中。ごめんだけど、無理」
D1なのはの口調が少し日常が混じっているように感じられた。さすがの彼女であってもガジェット12体の波状攻撃を受ければ多少の苦戦は強いられると言うことか。彼女が本来の戦法をとれたのなら、その程度の数など障害にもならないはずだが、この訓練を受ける前に彼女のデバイスには様々な制限が加えられていたためそれも致し方のないことだった。
見るとD2も先程出現した9体のガジェットと交戦中のようで手が離せない様子だった。
「D3了解。こちらで対処する。D2へ。更に敵の増援がそちらに向かいつつある。1時方向、距離210、速度40、総数7。対処不能であれば、3時方向のD1との合流を推奨する」
D2ヴィータは、現在自分が相手をしているガジェットの数と今自分に向かいつつある敵の数に驚いた。
「マジかよ! CP(コマンド・ポスト:司令所)も容赦ねぇな……、カートリッジロード!」
おそらく今のが最後のカートリッジだな。とエルンストは思うと、自分自身にも接近しつつあるガジェットを意識に入れた。
11時方向、距離80、速度84、総数1。一体程度なら何とかなるか。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪