りりなの midnight Circus
着陸(タッチダウン)もままならないままなのはとヴィータはそう告げるとデバイスをセットアップし、ヘリのキャノピーを押し開き、そのまま自力着陸を敢行する様子だった。
「お二人も」
エルンストはそういって敬礼を送り、二人の姿は陸上へと消えていった。
二人を下ろしたヘリは、先程は言った命令に従い、街を大きく迂回しその反対側のビル群へと移動した。
そのビルの頂上。エルンストはそこに下りて監視を開始せよと命令を受けている。それはアグリゲットではなく、公安の現場を指揮する捜査官の一人からだった。
エルンストは、シートベルトを外し【コールド・アイズ】をセッティングしそのままヘリから地上に降りた。
飛行適正の低いエルンストであっても一〇メートル足らずの高さを自力着陸する程度のことなら問題なく行える。
「それじゃ、エルンスト一士。がんばれよ」
ヘリはそう最後のメッセージを残し、天高く上っていきビルの樹海を器用に駆け抜けていき、どこかへ消えていった。
「がんばると言っても、俺は監視だけしかやらないがな」
エルンストはそう呟くと、念のため【クリミナル・エア】をカービン銃のモードで起動し、それを脇にやると出現したバリアジャケットを周囲の環境の色彩に合わせ、【コールド・アイズ】を抱え込み、その場に伏せた。
【ストライク・ビューワー】は貪欲に周辺の空間を飛び回る情報をかき集め、黙々とそれを咀嚼し、そこから生まれ出た結果をエルンストに伝え続ける。
そんな中、エルンストを呼び出す声に彼は気がつき、耳を澄ませた。
「よう、ご苦労だな。公安に強力お疲れ様、カーネル一等陸士」
それは忘れることの出来ない声だった。
紛れもない、ベルディナ・アーク・ブルーネスが彼の回線に割り込みをかけてきたのだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪